■「私の好きなレコード」 ドナルド・キーン 中公文庫
日本文学研究家として高名な「ドナルド・キーン」。なんと外国人なのに文化勲章までもらっている。
そんな彼が書いた、オペラを中心にした評論集である。
音楽と文学との融合、つまり「音を言葉で語ること」というのは本当に難しい。戦後になって小林秀雄が「モォツァルト」でその幾分かを達成したが、その後になって発展しているとは言い難い。
そこへドナルド・キーンは芭蕉の句を持ってこれに答える。
海くれて 鴨の声 ほのかに白し
この句をこの本で初めて知ったとき、鳥肌がたった。これが普通の「5,7,5」だったら台無しである。つまり、「海くれて ほのかに白し 鴨の声」ではダメだ。
「5,5,7」にして詠った芭蕉の天才よ。
もちろん本文自体も面白い。そこらのヒモつき音楽評論家とは一線を画した、怜悧でありながらも自分の趣味性を全面に押し出しているこんな評論は、今時なかなか読めないものだ。
オペラを聴いてみたい。人の声に感動できるようになってみたい。という人は、この本がCD選びの参考になるかと思う。