民主主義が合理的でない理由
学校では「民主主義って素晴らしい!」と教えているわけだが、本来の意味での民主主義というのは、なかなかに難しいものである。多数決では真実を決定できないからだ。
一つの例を挙げてみよう。A、B、Cの三人が食事に行くとする。しかし、何を食べにいくか決まっていない。
A:焼肉食べたいなー。ダメならイタリアン。中華はイヤだ。
B:イタリアン食べたい。ダメなら中華。焼肉はイヤ。
C:中華食べたいぜ!ダメなら焼肉。イタリアンはイヤだぜ。
記号にすると、こうなる。
A:焼肉>イタリアン>中華
B:イタリアン>中華>焼肉
C:中華>焼肉>イタリアン
さて、3つで考えると面倒なので、2つの候補を上げ、多数決で決めてみよう。まず、焼肉とイタリアンについて投票する。すると、
A:焼肉>イタリアン
B:イタリアン>焼肉
C:焼肉>イタリアン
よって多数決で焼肉に行くこととなる。つまり集団としては、「焼肉>イタリアン」となるわけだ。
次に、イタリアンと中華について投票してみよう。すると、
A:イタリアン>中華
B:イタリアン>中華
C:中華>イタリアン
よって多数決ではイタリアンに決まる。集団としては「イタリアン>中華」となる。
最後に、焼肉と中華について投票する。すると、
A:焼肉>中華
B:中華>焼肉
C:中華>焼肉
中華に決まる。集団としては、「中華>焼肉」となる。
この結果から分かるとおり、個人としては順位が付けられるのに、集団としては順位を付けることができなくなるわけだ。これを言い換えると、
「個人的には合理的に選択を顕すことができても、投票による手段によっては、集団としての合理的な選択を顕すことはできない」。
では、どうすれば良いのか。二者択一では矛盾が生じる。そこで。。
点数制にしてみてはどうだろう。たとえば、
A:焼肉3点、イタリアン2点、中華1点
B:イタリアン3点、中華2点、焼肉1点
C:中華3点、焼肉2点、イタリアン1点
そうすれば、全て合計6点ずつとなり、矛盾は生じない。しかし同点では結果が決まらないので、もう一人追加してみよう。例えば
D:中華3点、イタリアン2点、焼肉1点
すると焼肉の合計は7点、イタリアンの合計は8点、中華の合計は9点。つまり、全体としては
中華>イタリアン>焼肉
となる。
これで中華に決まり! ・・・ということで、点数制大歓迎ってことか。
さて、ここで3つではなく4つで考えてみたらどうなるのか。中華とイタリアン、焼肉に関する好みの順番は変えずに、4つめの候補、寿司を加えて考えてみる。
A:焼肉4点、寿司3点、イタリアン2点、中華1点
B:寿司4点、イタリアン3点、中華2点、焼肉1点
C:中華4点、焼肉3点、寿司2点、イタリアン1点
D:中華4点、イタリアン3点、焼肉2点、寿司1点
この場合、寿司の合計は10点、焼肉の合計は10点、中華の合計は11点、イタリアンの合計は9点。
よって全体としては、
中華>寿司=焼肉>イタリアン となる。
さっきまでは「イタリアン>焼肉」だったのに、選択肢が1つ加わったことによって、「焼肉>イタリアン」となってしまった。つまり、焼肉かイタリアンかという選択が、候補に寿司が加わったことにより、結果が逆になってしまったわけだ。
よって、点数制もやはり合理的ではない。いったい、合理的に民主主義的選択をすることは可能なのだろうか。A>B、B>Cならば、A>Cである。これを「推移律」という。しかし二者択一だと、この推移律がなりたたないことがあり、ダメだということを最初に示した。
A, B, Cの中で点数投票すると、A>B>C, しかし候補にDが加わると、A>C>Bとなってしまうことがある。これを「独立性が満たされない」と言う。
さて、結論から言おう。推移律や独立性、その他民主主義の成立のために必要となる合理的な方法は、「存在しない」。
これを「アローの不可能性定理(一般可能性定理)」という。興味のある人は検索してみてください。