完璧主義者は消しゴムに
漫画家の山岸涼子に「テレプシコーラ」という作品がある。テレプシコーラとは「合唱詩と舞踏をつかさどる女神=舞姫」を意味する。つまりバレエの漫画なのである。
山岸涼子には「アラベスク」という、やはりバレエ漫画の傑作があって、これも読み返すたびに作者の持つ観察眼に驚かされる。
ここでいう観察眼とは、人間関係に対するものだ。女性同士の人間関係はドロドロしていて、イジメも執拗だと言われる。山岸涼子は、この「ドロドロさ」を見事に表出しているのだ。
個人的には男の人間関係/嫉妬のほうが陰湿だと思うが、その辺の比較はまた別の機会に。
なんにせよ、コミックの人気ランキングのトップになるような読みやすい漫画ではない。こころの深層に踏み込み、精緻かつ壮大な構想を持つこのような漫画は、オトナになってからでないと本当の良さは分からないだろう。
さて、テレプシコーラの主人公はまだ小学生である。そして、何でもよく出来るお姉さんがいる。お姉さんはバレエコンクールでもトップ入賞するほどで、将来を嘱望されている。完璧主義者で勉強もよくできるし、がんばりやさんだ。
主人公はそれなりにバレエも出来るものの、学校の成績もイマイチ。欲がなく、すぐに凹みやすく、頑張ろうとする気力も少ない。
そつなく完璧で、周囲にも期待を寄せられている姉。そして姉の才能の陰にかくれている妹。しかし物語は後半になって思わぬ展開を見せる。ここまでネタバレしておいて申し訳ないが、気になる人はぜひ読んでみて欲しい。
私の感想を書こう。完璧主義者は、簡単には自分の生き方を変えられない。問題に直面したとき、柔軟な対応ができない。全て自分で抱え込み、そして全て自分だけで解決しようとする。
これが悪いとは言わない。しかしダイヤモンドは硬いけれど、ハンマーで砕くことができる。消しゴムにハンマーを叩きつけても変形するだけで、けっして砕けることはない。
ハンマーに出会わなかったダイヤモンドもあるだろう。また、どんなハンマーでも打ち砕くことのできなかったダイヤモンドもあるだろう。
しかし、幸運でもなく、他を圧倒する優れた素質があるわけでもなく、誰にも負けない強靱な意志があるわけでもないし、周囲の環境にも恵まれない。そんな状況でしたたかに生き残り、勝ち続けていくことができるのは?消しゴムと化してこそ、そうなれるのだ。