検診におけるマンモグラフィーの有用性について!
今回の研究ではマンモグラフィーの過剰診断が関係しているみたい。しかし、見落としよりは良いと思う。
とにかく癌による死亡が減るのは良い事だ!
近年の乳がん死亡率低下におけるマンモグラフィ検診の寄与は、これまで考えられてきたよりも限定的であるかもしれない―マンモグラフィ検診導入前後の大規模な追跡結果から―(解説:下井 辰徳 氏)-618
- 2016/12/1
- 企画協力:J-CLEAR
- 臨床研究適正評価教育機構
米国では、乳がん死亡率は経年的に減少していることが知られている。ただし、この理由が乳がん検診の普及によるものと、治療の発達のいずれが大きいのかはわかっていない。乳がん検診の利益について検討するため、Welch氏らは、1975年から2012年までのSEERデータベースの乳がん診断数について検討した。期間は、米国におけるマンモグラフィ検診の出現前の期間、検診プログラムが普及していった期間、および普及後の期間が含まれている。
年代別の診断時腫瘍径については、Figure 2Aで1975年には、2cm未満の小さい乳がんが37%、2cm以上は64%程度となっていた。その後、1980年代のマンモグラフィ検診率が50%を超える時期には、とくに2cm未満の小さい乳がんの診断割合が上昇し、2000年代にはプラトーになってきたものの、2010年には2cm未満の小さい乳がんが67%、2cm以上の大きな乳がんは33%程度と、1975年と逆比率なっていた。さらに、Figure 2Bで女性10万人当たりの腫瘍径ごとの年次罹患数をみてみると、2cm未満の小さな乳がんは総じて増加傾向にあるにもかかわらず、2cm以上の大きな乳がんの年次罹患数は横ばいから若干減少ということになる。筆者らは、Table 1で1975~79年と2008~12年の女性10万人当たりの腫瘍径ごとの年次罹患数を比較している。これによると、2cm以上の大きな腫瘍は10万人当たり145例から115例と(30例分)減少しているものの、2cm未満の小さな腫瘍は10万人当たり82例から244例と(162例分)増加していることを示している。
早期乳がんのうちに発見して大きな乳がんになる症例が減る場合には、小さな乳がん診断数の増加と大きな乳がんの診断数低下がミラーイメージのようにならねばならぬが、そうはなっていない。2012年に同じ著者らは、早期乳がんの診断数の増加が著しく、進行乳がんの診断数の低下がほとんどない点から、乳がん罹患率の増加を現実的な範囲と想定しても説明がつかない早期乳がんの増加があるため、過剰診断が含まれているという報告をしている1)。今回は、検診後の乳がん発症割合は一定であるという仮定のもとで、腫瘍径の大きな乳がんの減少数に対して、腫瘍径の小さな乳がんの増加が著しいことから、マンモグラフィ検診には過剰診断が多く含まれているという考えを示している。
Table 2では、2cmを超える大きな腫瘍について、治療とマンモグラフィ検診の死亡率に与える影響を示している。治療の進歩については、治療による死亡数の減少は10万人当たり17例とされている。また、マンモグラフィ検診による死亡数の減少は10万人当たりベースラインでは12例、近年では8例と算出されている。Figure 3では、各腫瘍径の死亡リスクについて、1975~79年と2008~12年で比較している。これによると、相対リスクは大きな腫瘍に比べて小さな腫瘍でのリスク低減がより大きいとしている。
以上より、筆者らは乳がんのマンモグラフィ検診では、小さな乳がんの過剰診断に寄与しており、大きな乳がんの診断や死亡率低減には、治療の進歩の方が大きく影響しているのではないかと結論している。
今回の解析については、私としてはいくつかの問題点が挙げられる。たとえば、2012年の同著者らの論文でも同様であるが、リンパ節転移、遠隔転移については言及がなく、十分な乳がんのリスク評価がなされているとはいえない。また、死亡率の低減についての解析は、2cmを超える乳がんのみでなされており、それ以下の小さな乳がんについてはされていない。さらに、近年のマンモグラフィ精度の上昇や機器の進歩については、過剰診断を増やす可能性と正診率が上がる可能性のいずれもがあるが、評価には加えられていない。腫瘤径による乳がん死亡率の調整については、年齢や乳がんの病理学的予後因子が考慮されていない。
これまで、マンモグラフィ検診導入前後の乳がん死亡率の比較については、数多く報告がなされているが、研究期間中の治療成績の向上については考慮に入れておらず、10万人当たり数100例程度の死亡数減少が見込まれてきた2)3)4)。上記のように、いくつかのlimitationは存在するが、これらを踏まえたうえでも、私としては、大きな意義のある報告と思う。具体的には、治療成績の向上を考慮に入れて、かつ診断された腫瘍径の分類と予後の解析により、過剰診断の可能性と、マンモグラフィ検診の利益が以前考えられていたよりも少ない可能性が示唆された点は重要であると考える。
今後はマンモグラフィ検診の意義の社会的な再検討が進むとともに、検診に伴う過剰診断についても、対応を検討すべきと考えられる。ただし、Elmore氏は本稿のEditorialで、マンモグラフィ検診における過剰診断の原因は多岐にわたるため、過剰診断を減らすためには、多面的なシステムの発展が必要であると述べている5)。具体的には、過剰診断がなくならない理由として、検診のターゲット層、行政、医療従事者、患者それぞれの領域に原因があることを述べている。そのうえで、検診ターゲットについては、乳がん低リスクの全市民に行う現状を是正して高リスクに限ること、行政側は過剰診断や無治療でも予後にかかわらない腫瘤が存在するという真理を認識すること、さらに、医療提供者や患者にかかわる点では、より高い正確性と精度を有する新規の診断ツールの開発が必要であると述べている。
本邦でも、最近、新たな乳がんスクリーニングのガイドラインが報告されている6)。乳がん検診(日本では視触診とマンモグラフィ併用)受診率が、欧米と比較して日本では低い現状がある。とはいえ、視触診については「がん検診のあり方に関する検討会」の報告や上記ガイドラインでも、乳がんの死亡率減少効果としては根拠に乏しいことが述べられている。さらに、40代の若年者においては、本邦のJ-START試験7)の結果から、マンモグラフィ検診に超音波検診を組み合わせることがとくに小さな乳がん発見に役立つとされ、今後は超音波併用も検討されていくと思われる。
私としては、今後はマンモグラフィ検診による不利益だけではなく、日本における乳がん検診として、その利益と不利益の相対バランスを検討する必要があると考える。具体的には、「がん検診のあり方に関する検討会」など科学的解析に基づき、厚生労働省などが主導して検診体制を整備・再検討する必要があると考える。