妊婦さんの歯科治療
なぜならば、これは女性の患者さんの治療を行うにあたり大変重要な項目だからです。
妊娠・出産・授乳…という一連の流れで女性ホルモンの分泌量が変化し、さらに生活習慣や嗜好が変わることでお口の健康状態が悪くなりやすい傾向にあります。
また、皆さんご存知の通り大抵の歯科治療には痛みが付き物です。
虫歯を削ったり親知らずを抜く為には麻酔が必要ですし、炎症を抑える為には抗生物質の力に頼らざるを得ないこともあります。レントゲンを撮らないと確定診断が出来ない症状も多いのが現実です。
ではなぜ妊婦さんはダメなのか???
答えは簡単。医療には言葉で説明がつかない、わからないことがあまりにも多すぎるから。
ひとつずつ説明しますね。
抗生物質の多くは胎盤を通過するため、胎児の安全を考えると処方はまず避ける傾向にあります。(どうしても…の場合は産婦人科の先生と相談して行うことがありますが、よっぽどひどい場合に限ります。)
局所麻酔に関しては、胎児にほぼ影響はないと言われています。出産時に医科で使用されるものと同じ成分ですから、それを考えるとまぁ安心安全と考えて良いのかも知れません。
ではレントゲン…これはどうでしょうか。口内法と呼ばれる小さなフィルムを使用するものや、お口全体を撮影できるパノラマという大きな画像を得るための被曝量は0.01〜0.03mSvと言われており、私達が一年間に自然界から受ける放射線の1/40〜1/100です。
(参考までに、胃のレントゲン写真に必要なのは4.1mSvと言われていますから、いかに歯科の被曝量が少ないかがわかると思います。)
ただしこれらはあくまで実験上のデータであり「絶対大丈夫です」とは言えないのが正直なところ。
そもそも人体に『絶対』などという単語が存在しないのは、私たち歯科医は身をもって日々経験していることです。
ひとりひとり性格が違うように、体質も違うわけです。
局所麻酔を打ったら痛みのあまり体調が悪くなった→その後流産してしまった、なんていう事例が長い歴史の中にはあったかも知れません。
また、生まれた赤ちゃんに何らかの疾患があった場合「あの時歯科治療でレントゲンを撮ったからだ。」と悩み苦しむお母さんがいたという話も学生時代に偉い先生から教わりました。
そのため教科書的には「妊婦さんの歯科治療はなるべく避けましょうね。どうしても…の場合は双方合意の上、安定期に入ってからね。」というようなニュアンスのことが書いてあります。
妊娠を希望する女性はなるべく普段から検診を受けていただき、自分ひとりの身体でなくなった時に「痛い」「苦しい」思いをしなくて済むようにきちんとメンテナンスして欲しいなぁと願うのには、実はこういう理由があるからなのです。
続きます。