神様の子ども
私もかつては子供という、幸福のかたまりだった。ふっくらとした小さな手のひらで、この世の全てをつかもうとしていた。
庭遊びが好きだった。
私は遊ぶなかで、虫をよく殺した。
虫たち。
彼らは言葉が通じなくて、不思議な形をして、そして弱かった。
そう、呆気ないほどに彼らの命は儚かった。
水に沈めて、土に埋めて、瓶に閉じ込めて、そのたび彼らは動かなくなった。
あのときだったのだ。
虫を躊躇いなく殺したあのとき。
動かなくなった虫の死骸を思い出すたび、ただそこにいるだけで幸福の象徴たり得る資格を、私は永遠に失った気がしてならない。
そうして私は人というものや、いのちというものを理解した。
幸福の象徴、天使の資格を失った私は、体に悪いものもたくさん食べれる、すべての人を好きになる必要もない。初恋の気持ちは次の恋で忘れたし、嫌いな人の想いには応えなくてもよくなった。
つやつやとして、大人から無条件に愛されたわたしは消えて、ひとりの自由な大人になった。
それは、とても気楽で、すこしさみしい。
どうかこのさみしさが神様に伝わればいいと思う。