最後のミッションまで五時間。

外房の海から昇る朝日を見られなかった俺らは、

内房に沈む夕陽を見なければならない。

地の果てみたいな明鐘岬で時間を潰すことにした。

疲れを知らない若者は磯を飛び回って海を堪能する。

疲れすぎた馬鹿者は防波堤に寝転んでウツラウツラと船をこぐ。

いつのまにか隣に座って携帯をいじっていた娘に気がついた。

薄目で見ていた娘の

真剣なその顔は、みるみると曇って

やがて泣き顔になった。

何となくわかった。

具合の良くない仔猫が死んでしまったんだろう。

どうして良いか分からず俺は寝たフリを続ける。

しゃくりあげるような嗚咽から、

シクシクと。

気持ちが納まった頃に

猫、死んじゃったんだ。

そう聞いてみた。

びっくりしたように振り向いて、

急いで涙をふく。

俺も、たった数時間しか一緒にいなかったけど

泣きたくなるほど悲しくなった。

ポツポツと話し出す娘に、

そんなに猫が好きたったのかと聞く。

うんん。私、動物が好きなの。

将来は動物病院の看護婦さんになりたいんだ。

今までの乱暴な言葉じゃなくて、

とても女の子っぽい話し方にドキリとした。

そうなんだ。

娘がそんな具体的な夢を持っていたことに驚いた。

そうなんだ。

アホみたいな返事を繰り返す自分が情けない。

やがて、娘はその悲しみを乗り越えたように海を見据えた。

立ち直りの早さもまた、若さなんだろうな。

日没の5分前に、その喫茶店のオープンテラスに座る。

それがインスタントなのかさえわからない味オンチの俺でも

間違いなく美味しいと言い切れる珈琲を飲む。

娘は心の温まるココア。

寒くはないけど(笑)

本当は、

本当は二人で一緒に撮りたかったんだけど、

何だかそんな事を俺から言い出したら負けのような気がしてた。

だから勝ったと思うために

カメラを渡して俺を撮れって言った。

よくわからないけど、

きっと良い写真だと思う。

後から見ると俺の気持ちまで写ってるから。

結局、夕陽も雲に覆われて綺麗に見ることは出来なかった。

帰りの車。

なにもかも中途半端だったこの旅を、

すごく面白かったって言ってくれた娘は

助手席に座って静かな寝息をたてている。

何だかすっかり一区切りついたような気持ちに寂しさが増した。

とても楽しかったはずなのに。

あぁ、人並みに親父だったんだな。

唐突にそう思った。