人生修行
久しぶりに朝から晩までキックの会場にいた。
どうしてこんな痛い思いして試合に出るんだろう。
たくさんの選手を見ながらそう思った。
俺はどうだったっけ。
どんなに頑張ったって金なんか稼げる仕事じゃなかった。
どんなに頑張ったって有名になれる競技じゃなかった。
うん、俺は試合が好きだったな。
あの試合前の緊張感。
今、PTAの会長になんかになっちゃって人前で挨拶する機会が多いけど
あの緊張に比べたら屁でもない。
それから試合で狙っていたカウンターがバチッとハマって相手が倒れる。
もうそれは例えようの無い喜びだった。
エビちゃんは、もう俺の弟子になって10年近い。
ヘビー級とは言っても80kgそこそこで小さい方だ。
でも、来た試合は断らない。
なんで彼は試合に出るのだろう。
そう言えば、そんな真面目な話しはした事が無い。
いつの間にか戦績は10戦を越えていて、
残念ながら半分は負けてしまっている。
それでも試合に出続ける。
何時だって「オッケーっす」としか言わない。
相手がどんな選手かなんて聞かれたこともない。
それがもし人生の修行なのだとしたら、
もし、PTA会長になったらたくさんの経験をふまえた面白い話の出来る人になるだろう。
たくさんの後輩が出来たのなら、経験豊かな頼りがいのある先輩になるだろう。
勝ち星だけが勲章だなんてチンケなオトコには、絶対にならない。
楽しみだな。