千葉は島だったのか。その18の弐
しばらく海沿いの小さな道を走る。
小さな湾の向こうに高い石段の上に立つお寺が見えた。
何故かそこまで全速力で走らなければ、と思った。
クルリと海岸を走り、そして一気に石段を登る。
苦しくて苦しくて、足がもつれるように前に進まない。口はあけているけど空気が入ってこない。
膝に手をついたら負けだゾ!そんな事、先輩に言われたの思い出した。選手の頃よく経験した下っ腹の辺りが燃えるような、ズンとくる懐かしい感じ。
やっぱり苦しさの向こう側には素敵だった。
キラキラと、朝日を受けた輝くような港。
僕は頭の後ろに手を組んで息を整えながら、間違いなく一生忘れることの無い景色だと思った。
階段を降りて元の海沿いの小道を走る。
今度は小さな港に着いた。
まだ漁が終わったばかりなのかみんなで網の手入れをしている。
「あら、汗びっしょりだねぇ。どこから来たの?」
網を手入れしながらシワシワのおばあちゃんが声をかけてくれた。
御宿から走ってきました、と応えるとおばあちゃんはビックリしたように大きな口をあけて「まぁ!」と言った。
僕は少しだけ誇らしくなって「鵜原まで行くんです」って聞かれてもいないのに応える。
シワシワのおばあちゃんは、更にシワを深くさせてまた「まぁ!」と言った。
その反応に満足した僕は走るスピードを少し上げて勝浦に向かう山道を登った。
途中にあったエンピツみたいな灯台。
ちょっとだけ立ち寄って真下まで行ってみる。
やっぱりエンピツみたいだなって思った。
その少し先に、ガードレールの切れ間から下に降りる小さな道を発見した。
「今日のアドベンチャーその4」
もう、きっとイノシシとかシカが通る道に違いないって思うような小さな道を蜘蛛の巣を払いながら進む。
やめたほうがいいよって心の中の大人の僕がささやく。でも、苔むした石段が奥へ奥へと続いていて子どもの僕がその先にきっと何かあるに違いないって誘う。
ついに出たよ。
なんだかスゴいところに小さな小さなお社。
やっぱり来て良かっただろって子どもの僕がささやいた。
そして、やっぱり小さく手を合わせて元の道へと戻る。
僕は更に東に突き出た半島の先っぽを目指して走り出す。
八幡岬って言うらしい。
絶景ポイント、真下に見える勝浦湾を見下ろしながら僕はビショビショになった1枚目のTシャツを着替えた。