巣立ち
どんどんと水門が近づいてくる。
流れは速くなり、
俺は、舟を横に向けないようにするだけで精一杯だった。
「突っ込むぞ!掴まれ!」
俺は昇に叫ぶ。
何度かの激しい揺れのあと、
俺たちは激流を征して一息つく。
そしてお互いの顔を見合わせて、
ゲラゲラと笑った。
昇は末の子で、中学二年。
小学校の頃、たまたま連れていったラグビーが楽しくて一緒にいる機会が多かった。
だからなんだろうか。
思春期に、疎ましく思われる事は親の務めだなんて思っていたはずなのに、
部活やラグビーで忙しくて、かまって貰えないと妙に寂しい。
もうそんな時期なんだな。
無理矢理誘った無茶苦茶な川下り、
本当は乗り気じゃなかったと思う。
そんな優しさが、
もう子どもじゃないんだな。
ありがとう。
たくさんの想い出をくれた昇。
先を歩く、俺より重い荷物を背負った
彼の後ろ姿に呟いた。