チェチェン紀行 その3
いつも門の外でイカツい顔をしているセキュリティ。
俺はロシアの兵隊だよ。と言っていた彼は、幾つかの短い言葉を交わすと(もちろんロシア語と日本語なので想像の域を出ないが)
厳しい表情を崩して、自動小銃を掲げて見せてくれた。
スゲェ。
彼の意外に人懐っこい優しそうな笑顔と、
引き金を引くだけで多くの人を不幸に陥れる不気味な銃が、
あまりにアンバランスな気がしたから。
平和な日本で暮らす俺にとって、
その銃はあまりに非日常だったから。
そして俺は街に出ようと企てていた脱走を、心の底から諦める。
しょうがない。
ホテルに隣接された今回の会場でもある競技場を走る事にした。
この、街からは隔離されて自動小銃を持つ兵士に守られた競技場は
イスラム圏内ではご法度の短パンを履くこともできた。
競技場にはロシアのサッカーチームに所属する日本人選手の写真が飾られていて
なんだか誇らしい気持ちになる。
グルグルと同じところを1時間ほど廻ると、
競技場の真ん中にバッタリと寝転んで空を見上げた。
周りは高い壁に囲まれて街を見渡すことは出来ないけど、
真上に見えるグロズヌイの空は、どこまでも青くて高い。
横ではリングが慌しく造られていて、
競技場にバラバラといるロシア兵士が、何してんだコイツって不思議そうに俺を見ていた。