気仙沼→大島
ボランティアが無くなり、献花という目的を果たしてしまうと僕はやる事が無くなってしまった。
ポケットに手を突っ込んで首をすくめながら港を歩く。
あれからもうすぐ一年だけど、
海に沈んだ桟橋や想像も出来ないような力でポキリと折られた電柱、
津波に浚われて山のように積み上げられた車は当時と変わらない姿を晒している。
そして、その上にはねっりと重そうな雪が厚く積もっていて、何となく東北の春はまだだなって思った。
そこから大島へ向かうフェリーが出ている事を、港の駐車場に貼ってあったポスターで知った。
大島は、その構造上両脇から挟むように津波に襲われ、石油タンクから流れ出した油に引火した炎は島の山を燃やし、甚大な被害を被った島。
何も出来ない僕は、その島に渡り食事でもして少しでもお金を使って帰ろう、と決めてフェリーに乗り込んだ。
いつの間にか雪は雨に変わっていて、デッキに佇む僕を濡らすけど、低く垂れ込める雪雲に霞む水墨画のような大島をずっと眺めていた。
仮設の桟橋を伝って島に降りる。一時間後のフェリーで本土に戻る事を決めてそこに止まっていたタクシーに食事の出来るところをお願いした。
僅かな金額にしかならないのに、運転手さんは津波や山火事の様子を語ってくれた。
「たくさんのお客さんが来てくれる事が、一番の復興なんです」
温かい言葉が終わらないうちに山の上にあった居酒屋に着き、
運転手さんは笑顔を残して去って行った。
無線で知らせてくれたのか、慌ててお店の人が「営業中」の看板を出しているところで、僕は見えないふりをしてこっそりとお店に入る。
そういえば久しぶりの食事だった事に気がついて、まずはビールとカジキのお刺身を頼んだ。
一息ついたところで、牛肉ラーメンをお願いする。
それを食べ終わる頃にはお腹が一杯だったけど、
今度はカンパチのお刺身と、またもやビールを頼んだ。
どれも美味しくて、でもとても安い金額に驚きながら店を出た。
やっぱりあまり役に立たなかったな、と自嘲しながらビール二本分の気分良さで港に向かって坂道を下って行った。