大島→気仙沼
ブーッ、ブッブーッ、軽自動車特有の少し詰まったクラクションが、静かな山道を歩く僕の後ろから鳴り響いた。
振り返ると、フロントガラスにへばりつくようにハンドルを握るおじいさんがこちらを睨んでいる。
そのまま僕の真横に急停車すると、バカンと扉が開いた。
乗れ。
え?僕の脳裏に拉致だとか監禁なんて物騒な言葉が浮かんだ。
訝しげな顔の僕を見つめ、また一言。
乗れ。
気圧されるように乗り込むと、
今度は
どっから来た?っと。
千葉です、と答える僕。
すると、何時に帰る?
11時半の夜行バスで一ノ関から帰ります。と律義に答える僕。
ふ〜ん、
って終わりかい!とツッコミたい気持は何となく気まずい沈黙が押し留める。
そうこうしているうちに港に到着した。
じゃあな。
ええっ、やっぱり終わり?
僕は焦って名刺を取り出し、自己紹介とお礼を言った。
俺はこの島で牡蠣作ってる。
またな。
見返りなんか考えてない、あまりに潔いご好意に旅の醍醐味を感じた。
フェリーに乗って冷たい風に当たっても、いつまでも僕の心は温かかった。
と、携帯電話に着信。
見知らぬ番号に少しだけ不安が過った。
大島のKだけど。
ああ、先ほどはありがとうございました。
お前さん、これから何すんの?
いやぁあまり考えて無いですけど、近くを見て回ろうかと。
そっか、次の船でそっち行くから待ってろ。
はい、って何処に行くの俺!
期待と不安を胸に、約束までの一時間を潰そうと笑顔が素敵なお姉さんが呼び込んでくれた屋台に入った。
そこで頼んだカニのスープは目の玉が飛び出るほど美味しいかった。
ふと店内のテレビを見ると、気仙沼の津波のシーンを映していた。
それは関東エリアでは放送されていないかなり凄惨な映像で、僕は息をするのも忘れるほど見入った。
ふとお姉さんが涙ぐんでいる事に気がつく。
僕は自分勝手にその映像に見入っていた事が恥ずかしくなって、
お姉さんにお詫びして、テレビを消してくれるように頼んだ。
でもお姉さんは、是非見て欲しいって言って、私もすぐ近くのビルの屋上に3日間も取り残されてたの。って体験談を話してくれた。
もうさっきの笑顔に戻ったお姉さんは、自衛隊のヘリコプターで助けて貰った事を自慢していた。
約束の時間、僕は港に向かって歩き出した。