父娘物語 その7
クタクタだった。
腰が砕けたように観音様の脇にあるベンチにヘタリ込む。
もう一ミリだって動きたくない。
俺はそう思っていたのに、
50メートルの観音様を見たとたん、
娘はよくわからない叫び声を上げて入口まで走って行ってしまった。
「でけぇな」
独り言なのか俺に言ってるのかは分からないけど、
その驚きが伝わるくらい大きな声で。
「いくぜ、とーちゃん」
今日一日で何通りあったのか覚えていない位、
バラエティに富んだ呼ばれ方に嬉しくなる。
が、
その観音様の内部には当然エレベーターなど無くて、
果てしない螺旋階段が遥か上まで続いていた。
半ば自棄になって脚を引きずりながら娘を追う。
途中の祈願処で待っていてくれたと思った娘は、
俺に見せたくないものを書いていたのか、
隠すようにそのノートを閉じて、またバタバタと慌ただしく先を登っていった。
彼女がどんな事を書いたのか興味をそそられてノートを開く。
一番最後のページに、俺の字よりも遥かに大人っぽい字で
「猫ちゃんが元気になりますように」って書かれていた。
なんだか悪いことをしてしまったようで、そっとノートを閉じる。
とっくに上に登っていってしまったかと思っていた娘は、
観音様の腕の中にある展望台で、走ってきた岬を眺めながら風に吹かれていた。
やっぱり待っていてくれたのかな、って思うと
優しく成長した娘が頼もしく見えたのに、
その成長の過程を知らない俺は、なんだか少し寂しい気持ちになってしまった。