某有名ブラック企業に就職して新人研修合宿に行った話11
(めちゃくちゃだ……)
その会場にいる誰もがそう思いました。
ここで受ける叱責に意味はない、と。
そこにあるのは暴力にも似た理不尽さと
罵倒し続ける教官の言葉の波でした。
ボクらに残された方法は、まるで台風や津波のような
大災害に見舞われたときと同じようにすることしかありません。
ただ、耐えるということ。
教官「おい、君ィ!!」バン!
ハァ、またか……
そんな声が会場から聞こえてきそうな雰囲気でした。
???「はい」
教官「君、いま僕のことを睨んだかね?」
???「いや、見てただけッスよ」
教官「なんだ、君、その態度は……」
???「態度……はは、態度ならそっちのほうがよっぽど悪いじゃないスか」
教官「何ィ……?!」ギリ
一同(おいおい、マジかよ……)
メガネ「大島さん、ヤバイっすね。アイツ」
隣でメガネが声をかけてきます。
たしかに。
こんな新人研修で何をムキになっているのか
そう思いました。
たしかに教官の発言はムカツキます。
しかし、この場で教官に噛みつくなど
火に油を注ぐようなもの……
大方、高校を卒業したばかりの
熱血漢を履き違えたような若者でしょう。
ちょっとそいつの顔でも見てやろうか
そう思ってボクが振り返ると
(槻本ーーーーー!!!!)
教官「おま……え……だとぉ?!」
え、なにやってんのあいつ(´・ω・`;)
マジで、なにやってんのぉぉぉぉおお?!(´;ω;`)ブワッ
メガネ「うっわぁ……教官マジ切れちゃってますよ
いるよなー、ああいう空気読めない奴w
ああいう奴と同じ配属先だったら超メイワクっスよねーwwww」
同じ配属先なんですけどぉぉぉおお!!!!(`;ω;´ )
どこまでもウザいメガネにイラだっている間にも
教官と槻本の口論が続いています。
教官「お前、どこの部署だ、名前を言え!」
槻本「○○ソリューション(配属先)だよ!
つーか、『名前を言え』とかって言い方もありえないっしょ」
2人のやりとりは10分ほど続きました。
教官「あー、もういい、もういい。
君終わったあと残れ。2人で話をしよう」
槻本「……」
そんな教官の言葉を最後に
槻本も空気を察したのか、おとなしく席に戻りました。
メガネ「うわぁ、やばかったスね。でも、学校の授業中に
先生がマジギレしたときみたいな感じでちょっと楽しかったスねー」
ボク「あ、ああ……(つーか、メガネお前ホントにウザいな)」
ボク(槻本、あいつ大丈夫かな……)
ボク(研修中に教官と喧嘩するなんて、下手したらクビだぞ)
何事もなかったように研修を続ける教官の声を聞きながら、
ボクは彼がなぜあんなに激怒したのかを考えていました。
~数時間後~
教官「よーし、ここまで。各自部屋に戻ってしばらく休憩とする。
その後、夕食と入浴、その後二時間ほど短い研修だ」
そんな教官の指示で、研修生たちが部屋を出ようと動きだしました。
槻本だけは当然のように静かに座席に座っています。
教官が彼のほうへ歩き出しました。
メガネ「おー、恐っ! 巻き込まれないうちにさっさと出ましょうよ」
ボク「うん……そうだな」
急かすメガネと一緒に研修室をあとにします。
廊下を自室に向かいながら、
ボクはなんとなくモヤモヤしたものを感じていました。
軽薄で女好きでなんでもそつなくこなすタイプの
あの槻本がなぜあそこまで教官に怒りをあらわにしたのか。
クビになるリスクまで背負って主張したかったのは一体なんだったのか。
メガネ「ん? 大島さん、どうしました?」
気付けば、ボクは立ち止まっていました。
ボク「……悪い、先言っててくれる?」
メガネ「え?」
そう言って、ボクは再び研修室のほうに走り出していました。
少し、盗み聞きするだけ。少しだけ。
そこにはメガネと同じような野次馬感情があったでしょうか。
しかし、ボクはなんとなく初めて感じる
彼の熱い部分を見たようで、ワクワクしていたのかもしれません。
槻本「だからぁ!」
研修室のドアの前まで来ると
槻本の怒鳴り声が聞こえてきました。
ボク(あいつのこんな声初めて聴くな……)
ボクは少しドキドキしながら、そっと研修室の扉の
隙間から中を覗きました。
槻本「だから、女の子にあの言い方はないでしょっていってんの!」
ボク(……!!)
教官はそんな槻本に対し、この会社お馴染みの
あの仁王立ちポーズで対峙しています。
教官「それで?」
槻本「いくら研修でもこれはやり過ぎです。あの子に謝ってください」
教官「ふぅ……それはできない」
槻本「どうして?!」
喰ってかかる槻本に教官は先ほどまでの
はっきりとした物言いはせず、何かを小声で伝えているようでした。
ボク(聞こえない……)
その教官の耳打ちのあと
またも槻本が声を荒げていましたが、ボクの頭には
その言葉はあまり入ってきていませんでした。
ボク(あいつ、あの女の子のためにあんなにキレてたのか……)
ボクの脳裏に、教官に目が細いことを指摘された
あの小太りの女の子の顔が蘇ります。
ボク(あの子の……ために……)
ボクは槻本の怒りの理由を知ると同時に
自分の浅はかさを恥じていました。
ボク(もう聞く必要はないな……)
ボクはゆっくりと、研修室から離れて行きます。
扉の向こうでは、まだ槻本と教官の口論が続いていました。
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