おりょうが見た坂本龍馬
人間にはいろんな顔がある。仕事で顧客と交渉しているとき、友人たちと会食をしているとき、そして家族と過ごしているとき。そのそれぞれで、同じ人間でも微妙にちがう顔を見せているはず。なかでも家族、特に配偶者ほど素の表情を見せている相手は他にいないだろう。
ボクという人間の素顔を知っているのは妻。笑ったり喜んだりしているときだけでなく、怒ったり落ち込んだり、失敗して絶望しそうになっている姿も見せてきた。これからもそんなボクを見せていくだろう。ほとんどの夫婦はそうじゃないだろうか。まぁ、夫婦関係にもよるだろうけれどwww
ということは、歴史上知られている人物の素顔を知っているのは配偶者かもしれない。そういう意味で、とても興味深い著作を読んだ。
2022年 読書#84
『わが夫 坂本龍馬 おりょう聞書き』一坂太郎 著という本。ボクも大好きだし、幕末史では多くのファンを持つ坂本龍馬。それは司馬遼太郎さんの小説の影響ゆえだと思うけれど、たしかに魅力的な人物だと思う。
なかでも歴史的に有名なのが寺田屋事件。犬猿の仲だった薩摩と長州の同盟を結ぶことに成功した龍馬が、寺田屋に戻って用心棒として長州がつけてくれた三吉慎蔵と祝杯をあげていたとき、幕府伏見奉行の役人に取り囲まれたという事件。そのとき風呂に入っていたおりょうが、ほとんど裸のままで龍馬に急を告げた。
これでおりょうの名前を耳にした人は多いだろう。龍馬にとって妻と言えるのはそのおりょう。龍馬は暗殺されたあと、当時は勤王志士として名を挙げられていなかった。彼が注目されたのは明治30年ころの日露戦争の時代。その詳細は省くけれど、著名になった龍馬に関する物語がいくつか出版された。
まだ存命だった高齢のおりょうは、そうした書物にいくつもまちがいあることを指摘してインタビューを受けている。その複数のインタビューをまとめたのがこの書籍で、とてもわかりやすく書かれていた。龍馬ファンなら一度は読むべき本だと思う。
おりょうも当時は高齢だったので、記憶ちがいもあったらしい。だからすべてを信用するわけにいかないけれど、人間の記憶なんてそんなもの。むしろ妻という立場で夫の龍馬を見ていた彼女の視点は貴重だと思う。
面白いエピソードがいくつもあった。小説になっていることから、まったく新しい事実もあって楽しかった。驚いたのは二人の結婚の時期。一般的には寺田屋事件のあと、怪我をした龍馬の看病をきっかけに二人は夫婦になったと言われている。でもおりょうによると、寺田屋に女中として預かってもらう前に、二人は夫婦になっていたそう。
ただ当時の常識として家と家との正式な結婚じゃない。だから龍馬の実家ではその結婚を認めていなかった。この時代には珍しい恋愛結婚で、かつ自由人の二人だから、世間の常識なんてどうでもよかったんだと思う。
笑ったエピソードは祇園のお茶屋である一力での出来事。一力亭といえばボクのもと上司のお店。この一力に、龍馬と仲間たち、そしておりょうは変装して遊びにいったそう。なんとおりょうは男装をしていた。ところが新撰組が騒ぎを聞きつけてやってきた。一力の女将が逃がしてくれことで助かったけれど、おりょうは男装のままで翌日まで逃げたそう。
知らなかったエピソードとしては、寺田屋に中村半次郎という薩摩藩の武士が宿泊した。西郷隆盛の腹心で、『人斬り半次郎』と呼ばれた示現流の達人。その半次郎が宴会で大騒ぎして、女将のお登勢は困り果てた。そこでおりょうが乗り出して半次郎を諌めた。
それで気に入ったのか、深夜になっておりょうの寝室に忍び込んできた半次郎。ところがおりょうは小刀を手にして抵抗した。その小刀を見た半次郎の友人が、龍馬の小刀であることを知っていた。まさか龍馬の妻だと知らなかった半次郎は、必死で謝って内緒にしてもらうように頼んだそうwww
おりょうの武勇伝もいくつかある。龍馬の死後、一人暮らしの家に強盗が入った。そのとき龍馬から預かっていた短銃をぶっ放し、強盗を撃退したということ。とにかくこの夫婦はヤンチャで、面白いエピソードがいくつもあった
もっと書きたいことはいくとつもあるけれど、この程度にしておこう。気になる人はぜひ本を読んでもらえばと思う。最後に一つだけ。おりょうが龍馬の死後、本当に夫婦にとって友人だと感じた人物の名前をあげている。夫を亡くしたおりょうのことを気にかけてくれたそう。
勝海舟、西郷隆盛、そして寺田屋の女将のお登勢。この三人の親切は心に残っていたとのこと。だから西南戦争で西郷の死を知ったとき、おりょうは号泣したらしい。幕末から明治という時代をリアルに感じられる素敵な書籍だった。
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