嵐に飛び込むのか、それとも呼び寄せるのか
今朝になって急激に気温が下がったようで、久しぶりに朝の窓が結露していました。それでも青空が広がる気持ちのいい天気です。今日で2月も終わり、明日からは3月です。
昨日の散歩中に見つけた桜です。早咲きの山桜だと思うのですが、もう花を開き始めています。春だなぁ。
沈丁花も咲いていました。この周辺は香水のような素敵な香りで満ちていて、立ち止まって恍惚としてしまいました。
兵庫県で春の訪れを告げるのが「いかなご」漁の開始です。今月の26日から「いかなご」が水揚げされまして、どのスーパーに行っても長い行列ができています。その「いかなご」を醤油やザラメ砂糖で炊き上げて、「いかなごの釘煮」という保存食が作られます。錆びた釘のように見えるので、そういう名前がついたのでしょう。
京都ではあまり話題にならないので、神戸に引っ越してきた時は本当に驚きました。だって誰もが必死の形相で並んでいるのですからね。散歩をしていても、あちらこちらで醤油と生姜の香りが漂ってきます。これまた春の風物詩かもしれませんね。
さて先日紹介した超、超、超の長編を昨晩に読了しました。
『錨を上げよ』百田尚樹 著という本の下巻です。上下巻合わせて1,200ページ以上の長編でした。
ところがその長さを忘れるほど面白い。昭和30年生まれの作田又三という人物に惚れ込んでしまいました。喧嘩っ早くて無鉄砲、怒りに囚われると狂犬のように見境なく誰にでも噛み付きます。女性に惚れ過ぎて自滅したり、突然やる気をなくして自堕落な生活を続ける。でも本当は頭が良くて、素晴らしい才能を持った人間です。そんなはちゃめちゃな又三が、同志社大学を中退してから30歳になる昭和60年までが下巻の内容です。
上巻でも書いたように、昭和史と連動して物語が進行します。それらの出来事は夢のような記憶の世界なのですが、又三の波乱万丈の人生がそうした出来事のリアリティを補完しています。本当にこんなことがあったんだなぁと、改めて思い起こさせてくれました。彼の性格ゆえに嵐に飛び込むのか、それとも嵐を呼び寄せる人間なのか。舞台は大阪から東京、北海道、そして再び大阪を経由してクライマックスではタイのバンコクが舞台になります。
北海道ではウニの密漁をする船頭になっています。私もよく知らなかったのですが、昭和50年代にはそうした密漁が横行していたそうです。根室の納沙布岬の4Km弱にある貝殻島はソ連が実行支配している島です。たった4Kmですよ!ロシア人はウニを食べる習慣がないらしく、大量のウニが収穫できるのです。けれども見つかれば当然ながら捕まることになります。ソ連だけでなく日本領では海上保安部に逮捕されます。これだけでも、どれだけはちゃめちゃな人生なのか想像できますよね。
とても面白い小説の形態だなぁと思い、少し調べてみました。このような小説を「ピカレスク小説」と呼ぶそうで、16世紀のヨーロッパで生まれたものだそうです。悪漢小説とも呼ばれています。特徴としては、
・一人称の自伝体。
・エピソードの並列・羅列
・下層出身者で社会寄生的存在の主人公
・社会批判的、諷刺的性格
を持っていて、写実主義的傾向を持った小説とのことです。
北海道から大阪に戻ってきた又三は、著者の百田さんと同じ大阪ローカル局の放送作家の道を歩んで結婚します。ところがその後は、著者とは全く違う人生を進み、違う結末を迎えました。決して悲劇ではないのですが、又三ファンとしてはとても切ない結末でした。やっぱり泣いちゃったなぁ。
大学を中退したり、転職を繰り返したり、自分が何をしたいのかわからない。まさしく30歳の頃の私の実像と同じなのです。世間を嫌い、社会を恨み、人間関係から逃避していました。又三という人間は、私にとって他人に思えませんでした。
百田さんの全作品を読破しようと思っていますが、今のところ『ボックス!』と並んでトップに君臨する作品です。百田さんにその気持ちはないと思いますが、できることなら中年になった又三の人生を読んでみたいです。平成のこの時代、彼がどのように社会を見て、そして生き抜こうとしているのか。私の人生と重ね合わせてみたいという好奇心に駆られています。とても素晴らしい小説でした。
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