妖怪の言葉にボロ泣きした
シリーズ作品の長所は、登場人物やエピソードが加わっていくことで、物語の深みが増していくこと。過去作品を知っている人ほど、その楽しみを存分に味わうことができる。一方シリーズ作品の短所はマンネリ化すること。特定のシチュエーションにこだわってしまうと、どうしても飽きられてしまう。
20年も続いているシリーズ作品がある。その理由を考えてみると、長所を生かしつつ、見事に短所を克服していた。今回の作品はそのことを十分に感じさせてもらえる内容だった。
2021年 読書#82
『すえずえ』畠中恵 著という小説。妖怪が活躍する『しゃばけ』シリーズの時代小説。この作品はそのシリーズの13作目となる。今回も5つの短編が収録されていて、連続ドラマのように物語が一話完結しつつも、その後につながる構成となっている。
『栄吉の来年』
『寛朝の明日』
『おたえの、とこしえ』
『仁吉と佐助の千年』
『妖達の来月』
という5作品。『すえずえ』というタイトルが意味するように、登場人物たちの未来の展望がテーマになっている。当然ながら主人公の一太郎がそれらの物語に関わってくる。
栄吉は一太郎の親友。寛朝は妖怪が見える僧侶。おたえは一太郎の母。仁吉と佐助は、一太郎が生まれてから彼を守っている手代たち。その正体は白沢と犬神という格の高い妖怪。
一太郎の祖母が大妖というかなり格の高い妖怪だったせいで、一太郎はその血を受け継いでいる。妖怪たちが見えて話ができるというだけなんだけれどね。それゆえ多くの妖怪たちが一太郎を慕って集まってくる。
どの物語も素敵で、シリーズを続けて読んでいる人にはワクワクする内容。なかでも『仁吉と佐助の千年』を読んで、ボクはまじでボロ泣きしてしまった。
一太郎は病弱だけれど、どうにか成人している。長崎屋という大店の後継なので、いずれ嫁を取らなくてはいけない。ところが彼の周囲には大勢の妖怪たちが居候している。そんなところへ普通の女性が嫁に来たら大変なことになる。
だから一太郎の将来を考えたら、妖怪たちは彼の元を去るべき。だけどそんなことをすれば、一太郎の性格からして気落ちして病気になってしまうだろう。そのことを心配した一太郎の祖母であるおぎんは、神の庭へ仁吉を呼び出す。
仁吉はおぎんが人間社会にいたとき、ずっと片思いをしていた。千年以上もおぎんのそばにいた。だけどおぎんが愛したのは、一太郎の祖父となる普通の人間だった。平安時代に出会った二人だけれとその恋がうまくいかない。おぎんはその男性が生まれ変わるたびに近づいて、何度もその恋を成就させようとした。
ようやく添い遂げられたのが江戸時代になって、その男性が一太郎の祖父として生まれ変わってきたとき。それでも片想いの仁吉は、ずっとおぎんを助けてきた。そしておぎんが神の国へ戻ると、今度はその孫である一太郎を守るために人間界に残った。
そんなおぎんは孫のことを心配していた。このままだと普通に結婚するのは難しい。だから一太郎と一緒に、神の庭に戻っておいでと仁吉にいった。つまり一太郎を死なせてやればいいと。
仁吉は迷った。その結果として、やはり一太郎とともにいることを決めた。それは寿命の長い妖怪がいつか来るであろう一太郎の死に立ち会うということ。
「若だんなの臨終を前にした時、自分やここの妖達が、平気かどうは分かりません。それで私は正しい答えではなく、やりたいことを決めました」
そこで一太郎は仁吉に尋ねる。何を決めたのか、と。
「おぎん様が千年やられたように、この世で待っていることにしました。若だんなが生まれ変わるのを」
ボクはこのセリフを読んで涙が止まらなかった。いまこうして書いていても涙ぐんでしまう。仁吉、カッコ良すぎるやん!
そしてその結果として一太郎の嫁問題と、妖怪たちの新しい居場所が『妖達の来月』という物語で解決することになった。つまりマンネリ化を見事に克服している。
ということでますますこの物語にハマってしまうボクだった。
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