ブラームス ~地上の星
何年も前に書いた文章だけど、この素晴らしい音楽を新しい友人たちにも是非聴いて欲しくて、ここに転載する。
ハイドンは朝に、ワグナーだったら夜の闇の中で。ヴィヴァルディが春、そしてシューベルトがこごえる真冬だったならば、フォーレには秋の夜更けがふさわしい。
いまの季節、もう冬にさしかかろうとする晩秋に聴きたくなるのは、やっぱりブラームス。それも彼の室内楽の最高峰、クラリネット五重奏曲を。
特にその第二楽章。苦悩と憧憬の交叉した、全四楽章の中でも、もっとも強く心の奥底に陰を落とし、それでいて茫漠とした闇の中から魂を引き上げてくれるようなアダージョ。
クラリネットがそのもっとも甘美な音域で三度下降のモットーによる憧憬の歌を奏でだす。
弦は弱音器をつけて、これにやわらかに加わり、エコーのように静かにクラリネットを追いかける。
そして色彩は急に陰鬱なロ短調となり、甘い苦悩が憧憬をおしのける。強弱はつぎつぎと変わり、弦がトレモロで暗い影をそえていく。
フォルテッシモで号泣するようになると、急に力尽き、諦めたようにクラリネットはいままでの断片をだしつづけ、最後に高らかなヴァイオリンによる憧憬の歌を奏でる。
神々のように天上を駆けめぐるモーツァルトに対し、ブラームスはあくまでも「地上の星」だ。でも、だからこそ、私は彼の音楽に感動する。
演奏はもう古くなったけど、レオポルト・ウラッハとウィーン・コンツェルトハウスのものを。
初出
http://ameblo.jp/doronjo7/entry-10382467927.html