パーシャルレップスの功罪
ゼロレンジ・トレーニングとかXレップス法などと呼ばれるテクニックが、一時期ボディビル雑誌を賑わしたことがある。簡単に言うと、筋肉が一番収縮したポジションで超高重量を持ち、その位置でキープするというものだ。
例えばベンチプレスだったら肘を伸ばしきる一歩手前、レッグプレスだったら膝を伸ばしきる一歩手前でキープする。あるいはそこから肘や膝を伸ばしきるだけの、極短い距離だけウェイトを動かす。
当然、かなりの重量を用いることができる。フルレンジのベンチプレスで100kgくらいの人でも、この方法なら200kgくらい扱うことができるだろう。そして、この方法でトレーニングすると、どんどん使用重量を伸ばすことができる。最初は200kgくらいでも、すぐに250kgくらいまで扱えるようになるかもしれない。
しかし、それは筋肉が増えたわけではない。神経系が改善されただけだ。だから1か月も続けると、伸びは止まってしまう。そして筋肥大も起こらない。そのため、このトレーニング法は比較的短期間で廃れてしまったようだ。
なお2005年の研究によれば、パーシャルとフルレンジ、パーシャル+フルレンジの3群で比較したところ、フルレンジ群がもっとも筋力がアップしたとのことである。
Influence of range of motion in resistance training in women
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15903383
だが、ここで疑問が残る。神経系の改善であれ、使用重量が伸びれば筋肉への刺激も増えているはずである。なぜ筋が肥大しないのか。
もっとも大きな原因は、ネガティブでの刺激がほとんどないことであろう。またストレッチの刺激も皆無に近い。この2つの(ネガティブとストレッチ)こそが、筋への最も重要な物理的刺激となる。簡単に言うと、これらの刺激によってc-fosやc-jun、c-mycなどの遺伝子が発現し、MGFなどの成長因子が分泌され、mTORシグナル伝達経路が活性化されて筋タンパクが合成されるわけだ。
ところでストレッチであるが、どのあたりまで筋肉を伸ばせばよいのだろうか。ベンチプレスの場合、バーが胸に付くまで下ろすことが「フル」レンジとされている。しかし大胸筋を最大ストレッチするためには、もっと深く肘を下ろさねばならない。
レッグエクステンションの場合、膝を曲げた状態から完全に伸ばすまでがフルレンジとされるが、多くのマシンでは膝を曲げきった状態がスタートポジションとはなっていない。
つまり、「フルレンジが筋発達に重要だ」とは言っても、多くの種目は本当に筋肉をストレッチさせていないのである。つまりエクササイズの可動範囲としてのフルレンジと、筋肉そのもののフルレンジとは異なっているわけだ。
しかしベンチプレスもレッグエクステンションも効果はある。完全にストレッチさせなくても、筋肥大は十分に起こる。ただし・・
プリーチャーカールで0°~130°(フルレンジ)と、50°~100°(パーシャル)を比較した研究がある。それによれば、フルレンジのほうは25.7%、パーシャルのほうは16%の筋力増加、筋サイズはフルレンジのほうが9.52%、パーシャルのほうは7.37%の増加だった。
Effect of range of motion on muscle strength and thickness
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22027847
この実験から、-もちろん全ての筋群に適用できるわけではないが-大雑把に言って、ハーフ(フルレンジの半分)では効果が薄いということが言えそうだ。各エクササイズについて、効果のある可動域の詳細をリサーチした実験が、今後望まれる。
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