SOLA TODAY Vol.721
時代の変化のまっただ中にいる人は、台風の目を体験しているのと同じ。本当に起きていることが見えない。
今の出版界の現状はまさにそんな状況。感じている変化以上のことが起きているような気がする。
雑誌が売れないのは知られているが、その影響がキヨスクまで及んできた。列車のなかでスマホを見る人が圧倒的に増えたので、雑誌や文庫本が売れない。
これまで鉄道弘済会という組織が雑誌の卸を請け負っていたが、売上が最盛時の9割減となって経営が立ちいかなくなったらしい。9割減なんて、ほぼゼロと同じだろう。
ただ、今すぐ雑誌が消えるわけじゃなく、取次大手のトーハンが一般の書店のように雑誌を卸すとのこと。だけどそれも長続きしないと思われている。なぜならJRの駅に雑誌を卸すには、JR系物流会社に手数料を払う必要があるから。いわゆる中間搾取というやつだよね。
ただでさえ取次会社の経営は苦しい。先日もこのブログで紹介したけれど、大手の取次会社は出版社に値上げを頼み込んでいる。それにはこうした事情がある。
ボクは京都の印刷会社で働いていたので、その仕組みを体感している。製本業者で加工された書籍は、すべて取次が取引している運送会社に納品する。そこから出版社に届けられたり、全国の書店に配送される。
その出版物輸送の経営がどの会社もヤバいらしい。ここ2〜3年で撤退することを表明している会社が多数あるとのこと。取次会社が出版社に値上げを要請したのは、出版物輸送の会社が一方的に値上げを通告したから。
これまで当たり前のように思われていた書籍の流通システムが崩壊しつつある。その元凶となっているのは、本が売れないということ。いくつもベストセラーを出している幻冬舎の見城社長が、会社の中間決算の数字を見て嘆いておられた。
これまでの最低の数字になりそう、とSNSで発言されている。出版されている本で重版がかかるのは、ほんの一部の書籍だけ。ほとんどが初版どまりで書店から返品される。ひどい場合は書店に並ぶことさえない書籍もある。
おそらくこれらの記事のようなことは、まだ表面的なことだと思う。水面下ではもっと大きな変化がすでに起きているのだろう。
でもボクは決して悲観していない。流通システムが変わることがあっても、本が消えることはないと確信しているから。紙の本であれ、電子書籍であれ、本の需要が完全になくなることはない。
こんな時代だからこそ、物語が必要だと思う。そう信じて、少しでも良質なコンテンツを生み出せるよう書き続けるしかない。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。