世界を変えた忍耐
今日から4月。我が街の神戸市灘区は、残念なことに今日が「桜まつり」の開催日。都賀川の河川敷で毎年開催されているけれど、これほど桜の満開を読みちがえた「桜まつり」も珍しいと思う。まだ開花宣言さえ出ていないからね。
それでもポスターを刷って告知しているから、やらざるをえない。関係者の人たちのことを思うと気の毒になってくる。きっと各地で同じような残念な思いをしているイベントの主催者がいるだろうなぁ。それほど今年の春は遅いものね。
そんな寒い春だけれど、昨日からプロ野球が開幕した。わがタイガースは昨年の優勝チームであるカープと対戦して、見事打ち勝った。今日はデーゲームで行われていて、先ほど5回の段階で3点差でリードしている。
AIの予測では最下位だと言われたタイガースだけれど、人工知能が読めないような予想外の活躍をしてほしいと願っている。まずはいいスタートを切れそうだからほっとした。
そんな野球シーズンのスタートにぴったりの映画を観た。
『42〜世界を変えた男〜』という2013年のアメリカ映画。
黒人として初めてのメジャーリーガーとなってジャッキー・ロビンソンを描いた伝記映画。彼の功績をたたえて、背番号の『42』はメジャー、マイナーリーグ、そして独立リーグやアマチュアまでを含めた、アメリカのすべての野球チームの永久欠番となっている。
時代は1947年。第二次世界大戦が終わって、従軍していたプロ野球選手がグラウンドに戻ってきた。だがその時代のメジャーリーグ登録者の400人はすべてが白人。まだ有色人種への差別が当たり前のように行われていた時代で、プロ野球もその習慣に従っていた。
ところが芯から野球を愛する男が、そんなメジャーリーグを変えようと立ち上がった。それは現在のロサンゼルス・ドジャーズの前身である、ブルックリン・ドジャーズのジェネラルマネージャーであるブランチ・リッキー。彼をハリソン・フォードが演じている。
リッキーは黒人の素晴らしい能力を評価するとともに、プロ野球から差別を廃止したいと願っている。そこで黒人リーグに所属していたジャッキーに目を付ける。最初は球団役員等は大反対するが、リッキーは球団の経営者として押し通す。
ジャッキーと契約するにあたってリッキーが求めたのは、どんな差別にも耐えること。逆上して差別をする人間に殴りかかれば、選手として認めてもらうことができない。どれだけ差別されようと、プロ選手としての実力で見返すように約束させられる。
だけどたったひとりの黒人。特にアメリカの南部地域は差別意識が強い。最初に立ちはだかった壁はチームメイトだった。さらに審判、相手の選手、観客まで明らかな差別をしてくる。ジャッキーが同じチームだというだけで、ドジャーズのメンバー全員の宿泊を拒むホテルまであった。
ジャッキーは決しておとなしい性格ではない。どちらかといえば黒人リーグのころは、差別主義者と戦ってきた人間だった。だからこそ黙って耐えていることが辛い。人間としての尊厳をむしり取られている日々だったから。
そんな彼を支え続けてたのがオーナーのリッキー。そのリッキー役のハリソン・フォードの素晴らしい演技に、何度も感動させられた。何が何でもジャッキーをメジャーリーガーとして成功させ、チームを優勝させるためにあらゆる努力を重ねる。
そしてジャッキーの妻、広報担当を任された黒人の記者もジャッキーを支える。その見事なまでの忍耐力を目の当たりにしたチームメイトたちも、やがて彼を受け入れていく。差別用語で罵倒する敵チームの監督に対して、憤然として立ち上がるチームメイトも出てきた。
もう映画の途中から泣けてくる。ボロボロと涙が止まらない。必死で差別に耐えて結果をだすジャッキー。それを周囲で支える家族や仲間。そしてその輪はやがて野球フアンの心を動かしていく。まさしくそれは世界を変えた忍耐だった。
そしてドジャーズはジャッキーのホームランで優勝する。作られたドラマじゃなく実話だから、その感動は半端じゃない。中盤からラストまで、ずっと泣き通していた。野球を愛する人にはたまらん映画だと思う。
いやぁ、いい映画だったなぁ。ドラマとしての盛り上がりには欠けるかもしれない。でも意図されて作られたフィクションではなく、実話だから当然だと思う。むしろ大きな事件を起こすことなく耐え続けたジャッキーの心を思うと、これほどの素晴らしいドラマはないと思う。
新年度早々、素敵な作品に出会えて幸せだった!
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