絶望に包まれた最後の愛
ニコラス・ケイジが大好きなボク。そんな彼が主演する来年公開の映画が観たくてたまらない。なんとニコラス・ケイジがニコラス・ケイジを演じる。
落ち目となった彼は経済的に苦しんでいた。ある日、100万ドルを払うから誕生日会に出てほしいというファンからのオファーを受ける。ところがそのファンは麻薬カルテルのボスで、彼は災難に巻き込まれいくという内容。
その映画のなかで、ニコラス・ケイジの代表作である『リービング・ラスベガス』、『フェイス/オフ』、『60セカンズ』等の小ネタが盛り込まれるらしい。そんな記事を見ていてふと気がついた。ファンだというのに、ある作品を観ていなかったことに気づいた。なぜなのかわからない?
そしてなんと、その作品がこれまで観た彼の出演作品のなかでトップ3に入る鬼気迫る素晴らしい演技だった。この作品でアカデミー主演男優賞を受賞しているのに、ボクはどうして見逃していたんだろう?
2021年 映画#101
『リービング・ラスベガス』という1995年のアメリカ映画。こんなにボロボロで死への道を進みつつも、狂おしいほど最後の愛に心を注ぐニコラス・ケイジを観たのは初めて。とにかく切なくて、切なくて。ある意味自業自得なんだけれど、主人公の絶望を非難する気持ちになれなかった。
主人公のベンはハリウッドで売れっ子の脚本家だった。ところがアルコール依存症になったことで、妻も子供も彼の元を去り、映画業界も彼から離れていった。それでも酒をやめることができない。最終的には脚本家として所属していた会社を解雇される。彼の手元に残ったのはその会社の退職金だけ。
ハリウッドを出たベンはラスベガスに向かった。酒をやめるつもりなんてない。自分の人生には何も残されていない。だからいつでも酒が飲めるラスベガスで死ぬつもりだった。残りの人生を4週間と見越し、退職金をその日数で分割して死ぬまで酒を飲み続けることにした。
そんなある日、ベンはサラという高級娼婦と出会う。サラもロスから出てきて、ラスベガスで仕事を始めたところだった。彼女の元締めだったユーリがマフィアに狙われて命を奪われたことで、サラは自由の身になった。でもどうしても娼婦しか自分にはできない。
だけどサラはベンといるときだけ本当の自分になれた。孤独だった彼女は、娼婦の仕事から帰ってきても彼がいてくれることで生きていける気がした。一方ベンも家族を失ってしまった孤独をサラによって癒されていた。まるで純愛のように、二人は互いを求め合った。
だけどベンは酒をやめられない。その先にはやはり『死』しかない。サラは彼を愛するあまり治療を受けてほしいと心の底では願うけれど、ベンの絶望は後戻りできないところまで来ていることを受け入れてしまう。
愛し合っているのに、終わりしか見えない愛。どちらも本気だけに、言葉にできないほど切なかった。ラストシーンはぼかされていたけれど、おそらくベンはこの世を去ったんだと思う。それはこの物語の原作者が、アルコール依存症の末に自殺したことと重なっているような気がする。
ニコラス・ケイジの演技は鳥肌が立つほど凄まじかった。アルコールが切れてきたときに震える手や、逆にハイテンションで狂ったように酒を飲んでいる姿に、俳優としての彼の実力の高さを改めて感じさせられた。
そしてサラを演じたエリザベス・シューの演技にも驚いた。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2と3でジェニファーを演じた彼女のイメージがぶっ飛んでしまった。破滅へと突き進む二人の愛がただ、ただ切ない。最後まで二人の演技に釘付けになってしまう作品だった。
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