SOLA TODAY Vol.25
京都祇園の芸舞妓の事務所で働いていたことがありますので、古典芸能に関心があります。在職当時は勉強も兼ねて、積極的に古典芸能に触れる機会を作ってきました。幸い京都はそういう環境が整備されているので、いつでも能や狂言を鑑賞することができます。わたし自身も現役の能楽師の方から、能の大鼓を習っていました。
ところがやはり時代とともに古典芸能は縮小していく感が否めません。若い世代が鑑賞する習慣を持たなければ、当然ながら衰退していきます。それはある意味自然淘汰的な要素なのでしょうが、そんな傾向に真っ向から抵抗して集客を伸ばしている古典芸能があります。それが歌舞伎です。
この記事の金額は東京銀座の歌舞伎座のものです。2013年4月に改装を終えて再開してから、連日盛況が続いています。2014年には1年間で146億円の興行収入を叩き出しました。それ以前が80億円くらいだったので、その伸び率の凄さがわかります。観客動員数で見ると、毎月10万人近くが足を運んだことになるそうです。
歌舞伎といえば、興行を仕切っているのが松竹です。これだけの収入を上げていても、なんとか黒字になる程度とのこと。それは古典芸能の宿命とも言える固定費の高さです。要するに関わっている人間が多いのです。
わたしも祇園時代に京舞の公演を主催している立場でしたから、その事情をよく理解しています。大道具や照明等の裏方さんはもちろん、大勢の出演者がいます。さらに古典芸能の場合は、演奏者が演目によって変わります。義太夫、長唄、小唄等にそれぞれのプロがいて、舞台に華を添えることになります。あるいは姿が見えなくても、影囃子というお囃子を使うこともあります。
その人数も演目によって半端ではありません。歌舞伎の『勧進帳』という有名な出し物には、松葉目の舞台にひな壇が設けられ、ずらっと長唄連中の方たちが並んでいます。弁慶と冨樫がにらみ合っている後ろで、圧倒的な迫力で長唄が演奏されます。それだけ多くの人件費がかかります。
歌舞伎の出演者等の報酬は定額だと記事に書かれています。京舞でも同じです。集客状況によって報酬が上下しませんから、必ず一定の固定費がかかるわけです。ですから集客に失敗すれば赤字になってしまいます。
そこで松竹としては、パンフレット販売、テレビ中継による放映権料、企業の協賛金等でビジネスを構築しています。歌舞伎の舞台の緞帳はとても高価なものですが、企業が贈呈してくれます。現物支給ですね。わたしの元職場である祇園甲部歌舞練場の緞帳も、京都の有名企業の贈呈でした。
そして歌舞伎が他の古典芸能と違うのは、常に進化していることです。古いものを守りつつ、新しい世代にアピールすることを忘れていません。それは若手の歌舞伎役者たちの不断の努力の結果だと思います。わたしの大好きな市川海老蔵さんも、演じられなくなった歌舞伎十八番の演目を復活させる傍らで、オペラや能楽とコラボした新作歌舞伎を上演されています。
スーパー歌舞伎やワンピース歌舞伎などは、若い世代の観客を大勢集めています。海外公演も積極的に行うことで、インバウンドの方たちも日本で歌舞伎を観ようと劇場に足を運びます。それと同時に人間国宝であるベテラン俳優たちによって、伝統も確実に継承されています。古典芸能でありながら、その地位に安住しない姿勢があるから、歌舞伎は今も進化を続けているのでしょう。
その一方で消えそうになっている古典芸能はいくつもあります。あえて具体例を出しませんが、歌舞伎のような努力をされていないように思います。古いことだけに固執して、伝統を振りかざすことで補助金だけを目当てにしています。観客に対するアプローチが見えないのです。
これは人間個人の生き方にも言えることですね。守るべきものと変えていくべきものを見つめ、それを現実的な行動にしていくべきです。そうしないと、消えゆく古典芸能のような人生になってしまうかもしれません。
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