SOLA TODAY Vol.240
とても不思議だけれど、年齢を重ねると田舎暮らしをしたくなる人がいる。そしてそばを打ったりする。実際に行動しなくても、潜在的にそう思っている人は多いのかもしれない。
だけどボクは正反対の生き方をしている。歳をとればとるほど、都会で暮らしたい。神戸市内くらいの街が、今のボクにはちょうどいい。もしかしたら10年後にはもっと派手な都会で暮らしているかもしれない。
都会のほうが医療施設は充実しているし、刺激的なことも多い。飲食店やデイサービス的なものも選択肢の幅が広い。都会の孤独死が話題になることがあるが、田舎だって万が一のことがあれば孤立してしまうのは同じ。
だから田舎暮らしをしても、やっぱり都会に戻りたいと思う人は増えてくると思う。でもそう簡単じゃないご時世になってきた。
今年の1月の土地の公示価格によると、不動産価格は上昇の傾向。でもそれは都会だけであって、田舎では逆に下がっているらしい。バブル期と同じ雰囲気で、投資対象になる不動産価格の上昇が全体を押し上げているだけだと思う。
だから中古住宅が売れない。特に郊外の一戸建ては、売却に相当苦労するらしい。団塊の世代たちはこぞって郊外に一戸建てを持った。そして満員電車にゆられて都心まで通勤する。この記事のタイトルにもあるように、ドラマの「金妻」のイメージがわかりやすい。
だけど子供たちが巣立って、都会に暮らすようになる。子どもが実家に戻ってきたときのために部屋をそのままにしても、若い夫婦は都会で共稼ぎをしていて滅多に帰ってこない。
夫婦ふたりで郊外の広い家に住んでいても無駄だし、都会のほうが暮らしやすい。だから自宅を売って都会のマンションで気楽に暮らそうか、と思ってもそうはいかない。だって家が売れないから。
東京都内への通勤圏で購入した4000万から5000万の不動産が、数百万円から1000万程度でしか売れなくなっているらしい。その資金で都会のマンションを手に入れるのは不可能。だから我慢して無駄に広い郊外の家で暮らし続ける。
するとどうなるか。郊外の住宅地が高齢化してスラム化していく。これは決してジョークじゃない。
ボクが住んでいた京都にも、そんな地域がある。私鉄の特急停車駅から市バスでアクセスできるが、以前は地下鉄の開通が計画されていた。ところがバブルが弾け、地下鉄計画は頓挫。
大量に作られた団地群とその山手に広がった高級住宅地は、年配の人たちばかりが暮らしている寂しい地域になっている。ボクが京都にいたころでさえそう感じていたくらいだから、今はもっと深刻な状態になっているかもしれない。
まだ現役で動けるあいだに、都会に近づいておくほうがよさそうだね。都会なら公共交通は充実しているから、自家用車は必要ない。買い物だって歩いていける範囲にある。田舎なら車が運転できなくなったら、途方に暮れてしまうだろう。
将来的には今の家を売って、賃貸暮らしに移行する予定。そのほうが自由に動けるし、そのときの状況に合わせて最適な環境を選ぶことができる。ある程度の都会暮らしを経験した人が田舎に移住する場合、何があってもそこで骨をうずめるほどの覚悟がいると思う。
ボクにはそんな覚悟はこれっぽっちもないので、できる限り都会に寄り添って暮らそうと思う。自然を楽しみたいときは、たまに出かけるだけで十分だからね。映画やコンサートや美術展が、日帰りで楽しめる場所から離れたくないなぁ。
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