魅力は、謎の多さに比例する
最近になってよく思うのが、ものごとの魅力は謎の多さに比例しているということ。
人の出会いで考えるとよくわかる。仕事上の出会いでも、友人関係でも、そして恋人でも、初対面では当たり障りのない関係から始まる。もちろん相性のいい悪いや、一目惚れ的なものもあるだろう。でも普通はなんとなく関係が始まる。
それは相手も同じで、最初は慎重に相手を観察している。だけど少しずつ人間がわかってくると、相手のことが知りたくなる。そんなとき、自己主張の強い人は自分からどんどんアピールしてくる。こちらが知りたくない身の上話を、勝手に話し出すような人もいる。
逆に自分のことをあまり語らず、どこか謎の多い人もいる。人間というのは不思議なもので、謎を追求したいという本能がある。秘密があるとかえって知りたくなり、いつしか能動的になって相手の謎を明らかにしようとする。
そういう風に考えると、『謎』というのは『魅力』と同義語だと言っていいように思う。どこか謎めいている人ほど、気になるものだよね。そのうち自分しか知らない謎を教えらたりしたら、相手に対する関心が一気に高まるだろう。
だから優れた映画や小説は、謎が巧妙に散りばめられている。謎が多すぎでも、そして謎のままなのもダメ。適量の謎が散りばめられて、それが少しずつ明かされていくと、次のシーンが気になるし、ページを繰る手を止められなくなる。
やっと気になっていた謎がわかったのに、またこんな謎が出てきた。くそっ、この先はどうなるねん! というパターンが最高だよね。
まさにそんなパーフェクトな謎が配置されている小説を読んだ。
『鳩の撃退法』上巻 佐藤正午 著という小説。
佐藤さんの小説は『月の満ち欠け』という作品を読んだことがある。直木賞を受賞した作品で、びっくりするほど感動した。人間の転生を描いた作品で、いまだに強く心に残っている。その作品でも、謎が絶妙なバランスで配置されていた。
この小説の謎は、その作品以上に悩ましい。気になって気になって、なんとも言えない気持ちになる。いやいや、マジですごい作家さんだと思う。
主人公は津田という元小説家の男。直木賞を受賞した経験があるのに、今は落ちぶれてデリヘルのドライバーをしている。その津田が、次々とやっかいなことに巻き込まれていく。
最初の謎は、ドーナツ店で知り合いになった男性一家の失踪。まるで神隠しにあったかのように、妻と娘の3人が行方不明になっている。
もうひとつの謎は、懇意にしていた古本屋の店主の形見。病気で亡くなったあと、津田に渡すようにとあるバッグを預かった。だけどそのバッグの中には3000万円を超える現金が入っていた。
ところがそれは精巧にできた偽札だった。その1枚を使ってしまったことで、津田は警察にも暴力団にも追われることになってしまう。とにかく上巻が終わった段階では、その偽札の謎はまったく解明されていない。
家族失踪の謎は、少しずつ明らかになっている。失踪した男の妻の不倫が原因になっていて、とんでもないことが起きている。今のところ失踪した事情はかなり見えてきたけれど、その家族の生死は不明。それどころか、もっと別の人間も殺されているかもしれない。
それらの出来事すべてに、この津田が関わっている。とにかく気になって仕方ないので、今日は図書館で下巻を借りてきた。今読んでいる本を読了したら、さっそく謎の解明をしたいと思う。
とりあえず上巻を読んだ段階で最大の謎は、なぜこの小説のタイトルが「鳩の撃退法』なのかということ。鳩が出てきたのは一瞬だけ。考えたら眠れなくなりそうやわ〜〜www
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