平和な日常は砂の土台
戦争ということに関していえば、日本人は平和な日常を過ごしている。だけどそんな平和という感覚は、いとも簡単に崩壊するかもしれない。ヨーロッパで第二次世界大戦が始まったときも、多くの人は戦争なんて起きないだろうと感じていた。
緊張状態が究極化すると、国家間の力が拮抗していて安定しているかのように感じる。だけどそれはちょっとした力のバランスが崩れることで、ダムの決壊のようなことになってしまう。ある映画を観て、人間の平和な日常なんて砂の土台に置かれている不安定なものだと感じさせられた。
2021年 映画#39
『オーガストウォーズ』(原題:August Eighth)という2012年のロシア映画。もしかしたらロシア映画を初めて観たかもしれない。写真を見ているとロボットが登場するSF映画だと思ってしまう。ボクも最初はそのつもりで観た。
でもまったくちがう。これは登場人物の一人であるチョーマという少年の妄想世界。映画で取り上げられているのは、2008年にジョージア(以前はグルジアといったよね)とロシア連邦とに起きた本当の戦争のこと。
チョーマの心情世界と実際の戦争がうまくミックスされていて、ハリウッド映画に勝るとも劣らない特撮とCGに圧倒される作品だった。ロシア映画がこれほどレベルの高いとは思わなかった。映像が素晴らしいだけでなく、母と子の愛情がテーマになっていて、かつ戦争の恐ろしさを強く訴えてくる素晴らしい作品だった。
夫と離婚したクセーニアは息子のチョーマと二人暮らし。恋人ができたことで再婚も考えていた。ところがある日、軍人である父親が自分の両親にチョーマを合わせてやりたいと希望してきた。クセーニアは恋人と二人の時間を過ごせると思い、迷ったけれど元夫の実家へチョーマを行かせる。夫の実家はグルジアとの国境にあり、夫もロシア軍の兵士としてその近くに駐留していた。
戦争なんて起きない、という夫の言葉を信じた。ところがチョーマが夫の実家についた直後、グルジアとロシアは戦争を始めた。そんな緊急時なのに、クセーニアの恋人はつれない態度をとる。息子が心配でたまらないクセーニアは、チョーマを迎えにいくため戦地となったグルジアへ向かう。
空港に到着してからの映像は壮絶。ロシア軍の全面強力によって撮影されたらしい。CGや特撮が駆使されていて、クセーニアが乗るバスがミサイル攻撃を受ける場面なんて本当の映像にしか見えない。そして終盤まで続く戦闘シーンも、戦争の恐ろしさを嫌というほど思い知らされる映像だった。
軍人である父親はチョーマと自分の両親を助けにいくが、グルジア軍の攻撃が早かった。祖母の機転でチョーマは祖父母の実家に逃げるけれど、父親と祖父母は戦車に車ごと破壊されて命を落とす。一人残されたチョーマは、自分をロボット映画の主人公と重ね合わせることで、戦地での恐怖に必死で耐えた。
結論として無事に母親が息子を助け出す。だけどその壮絶な過程はこの短いブログで書けるようなものじゃない。クセーニア役の女優さんの演技は微妙だったけれど、戦争の恐ろしさと難民たちの恐怖は十分に伝わってきた。
そしてロシア映画だからかもしれないが、とにかくロシア兵たちがかっこいい。最後までクセーニアを助けてくれたのはリョーハという兵士。ラストシーンを見ていると、きっと彼がチョーマの新しい父親になるんだろう。
本当に素晴らしい映画だった。ロシア映画ってすごいよね。日本人には観ることのできない名作がたくさんあるような気がするなぁ。
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