SOLA TODAY Vol.486
本が売れないという出版不況は、いまだに継続中。先日も統計の結果が出ていたけれど、紙の本の売上が最盛時に比べて半減しているとのこと。特に雑誌の衰退は目をおおうばかり。
当然ながら出版社の経営は苦しい。もちろん書き手も厳しい状況。面白そうなので試しに出版してみましょうか、なんて話は過去の出来事。そんな余裕は版元にはない。ほとんどの出版社が、数少ないベストセラーで売れない本の赤字を補填している状態。
著者、出版社、取次、そして書店というこれまでの流通経路が完璧に機能不全を起こし、世相と合わなくなってしまった。だからといって文字を読まないわけじゃない。ネットの記事の多くは文字だし、漫画も電子書籍は売上をを伸ばしている。
そんな行き詰まった感の強い出版界に、昨日新しい風が吹いた。
大手出版社の幻冬舎とクラウドファンディングで成長しているCAMPFIREが手を組んだ。その内容を記事から抜粋してみよう。
「クラウドパブリッシングプログラム」と呼ぶサービスの提供をメイン事業とする。顧客が出版物のアイデアを持ち込むと、新会社のスタッフが企画・編集などに協力。書籍として仕上げ、クラウドファンディングで販売するもので、収益の一部を支援者に還元する仕組みなども設ける。支援者にサービス内で使える仮想通貨を付与する案も検討中という。
簡単に言えば、読者を本の製作に巻き込もうという方法。こんな本を出したいという企画を公開して、出資者を募る。そして本が完成した暁には、その出資者に対するリターンがあるというもの。
どのような見返りがあるかは、著者によってちがうだろうね。著名人ならサイン本の提供でも喜ばれるだろうし、文化人系なら後援会の無料招待ということもできるだろう。とにかく一般の人が、本づくりに参加するというもの。
ひとつのコンテンツに対して、その内容に賛同するコミュニティを前もって作っておこうというものだろう。出版社としてもあらかじめ利益を見込めるし、本が売れる最低数を確保できる。
出資者も自分が関与した本を宣伝したいと思うから、SNS等で拡散することになるだろう。既存のシステムを根底からくつがえす新しい出版の在り方だと思う。ボクもそのプラットフォームが完成したら、利用してみたいと思っている。
だけどすでにこの方法でベストセラーを出している人物がいる。それはキングコングの西野さん。絵本として超ベスセラーになっている彼の著作は、この方法を利用することで完成されている。最新作の『革命のファンファーレ』という幻冬舎が出版したビジネス本も、同様のパターンですでに12万部を超えている。
ボクはこの企画を進めた幻冬舎の箕輪さんという編集者さんのTwitterをフォローしているので、この動きがあるのは予想していた。ところが元々この原案を箕輪さんに提案したのは西野さんだったのに、一言も断りがなく進められたらしい。
それで昨日の西野さん周辺のTwitterはかなり騒がしかった。西野さんは「もう幻冬舎では二度とビジネス本を出さない」とまで宣言して、『革命のファンファーレ』で利用していたCAMPFIREとも決別して、新しいクラウドファンディングの会社を立ち上げるとまで言われた。
今朝の西野さんのブログでは和解されたことを書かれていたが、西野さんのことだから対抗する企画を進めていくような気がする。昨日の企画発表と西野さんの動きは、外野から見ているとなかなか面白かった。
とにかくどちらにしても、現状のまでは出版界は沈みゆく船であることはたしか。この幻冬舎の企画が成功するかどうかはわからないが、同じような動きが起きてくるだろうと思う。
ボク個人としては、小説のようなジャンルに関しては、あまり合わないシステムじゃないかと感じている。どちらかと言えばビジネス書向きの企画のように思う。だけど抜本的な構造改革として、新しい風を吹かせることにはなるだろう。とても期待している。
ちなみに今年の夏にボクが最終選考まで残って落選した文芸賞は、この幻冬社が主催していたもの。それゆえに、いろいろ考えてしまうなぁ。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。