勇気という遺産を残した父
本当の勇気というものは、行動によってしか見せられないと思う。言葉を尽くして自分の勇気を伝えても、その一部しか理解してもらえないような気がする。その人の生き様によってしか、真の勇気は伝わらないのかもしれない。
だから作家は物語を書くし、映画監督はカメラを手にするのだろう。登場人物の行動を通してしか伝えられないものがあるから。
『カサブランカ』という古い映画がある。何度も観たくなるボクのお気に入り。この映画は第二次世界大戦中のナチスに立ち向かう人たちを描いた作品。驚くのは1942年に公開されたということ。まだ戦争の真っ最中だからね。この映画が人々の心を惹きつけるのは、この時期に公開しようとした監督や俳優たちの真の勇気を感じるからだと思う。
そして同様に、制作者と俳優たちの勇気に満ちあふれた作品を観た。
『アラバマ物語』(原題: To Kill a Mockingbird)という1962年のアメリカ映画。ボクが生まれた年の古い映画なので、いままで観たことがなかった。だけどもっと早く観ればよかった、と後悔するほど素晴らしい作品だった。
アメリカ南部のアラバマ州における人種差別を扱った作品。冤罪によって起訴された若い黒人男性を救うため、住民たちのパッシングに耐えながら弁護士として戦った人物の物語。弁護士の娘が1960年代になって、子供時代の1930年代の事件を回想しているという設定になっている。
1962年といえば、まだ黒人差別の激しかった時代。『ヘアスプレー』というミュージカル映画は1960年代の物語だけど、ボルチモアでは白人と黒人が同じテレビ番組に出ることさえ許されていなかった。白人の女子高生が黒人の男性と交際するだけで、親によって自宅に軟禁されるようなころ。
そんな時代にこの映画を公開したのは勇気があると思う。主演のグレゴリー・ペックはこの作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞しているけれど、KKKのような白人至上主義者に脅されなかったか心配したくらい。
この写真なんかめちゃ緊迫している場面。翌日の裁判にそなえて拘置所から近くの警察署に運ばれた被告。ところが黒人の犯罪を憎む白人たちが、裁判の前に殺してやろうと銃を手にしてやってくる。この子供たちが父の元へやってこなければ、父も被告も殺されていたかもしれない。
裁判のシーンは圧巻だった。ワンカットの長回しで被告の冤罪を証明するグレコリー・ペックの演技は、鳥肌が立つほど素晴らしいものだった。それでも被告は有罪判決を受ける。だけど裁判を傍聴していた黒人たちは真実を知っていた。退廷する主人公の弁護士に黒人たちが敬意を表するシーンは感動で心が震えた。
何より素晴らしいのは父と子供たちの関係。数々の脅しにもめげず黒人男性を弁護する父の姿を見て、子供たちは多くのことを学ぶ。この作品はハーパー・リーという作家が書いた自伝的な小説。つまりこの映画の娘は、原作作家の幼いころの姿でもある。きっと実際の父から学んだことが、この小説に結実しているんだろうと思う。
彼女は勇気という遺産を父から受け取ったんだね。原作を読んでみようと思う。
そしてこの映画で驚いたのが、ロバート・デュバルという名優のデビュー作だったこと。知的障害を持ち自宅に閉じ込められている青年の役で、白人至上主義者に襲われて殺されそうになる子供たちを助ける役で登場する。あまりに若すぎて、まったくわからなかったw
とにかく本当に素晴らしい映画。もっと書きたいことがあるけれど、このブログでは語りつくせない。本当の勇気はこういうものだ、ということを教えてくれる作品だと思う。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする