無性に哀しいホラー作品
ホラー小説を読むときや、ホラー映画を観るときは、恐怖に備えて覚悟を決める。怖がらせるのが目的の物語だから。
だけど歴史的に有名なホラー小説を読んで、恐怖を感じることはまったくなかった。その代わり、ひたすら哀しみを覚える内容だった。
2022年 読書#99
『フランケンシュタイン』メアリー・シェリー著という小説。名前だけは誰もが知っているフランケンシュタイン。ボクの世代なら『怪物くん』という漫画で主人公に仕えていたドラキュラ、狼男、そしてフランケンシュタインの3人のアニメキャラが頭に浮かぶと思う。
ところがこの小説が出版されたのは1818年。日本の江戸時代に世に出た作品で、当時は匿名だった。シェリーの夫である詩人のパーシー・ビッシュ・シェリーが序文を書いたことで、彼の作品だと思われていた。でもその時代は女性作家が容認されていなかったからそうなっただけ。
夫の死後、本当の著者であるメアリーの名前と序文が追加されて重版されている。この翻訳本には、それらの序文がどちらも収録されていた。ボクがメアリーに興味を持ったのはスティーブン・キングの書いたホラー解説本が最初。
そしてその後『メアリーの総て』という映画を観て、メアリーを演じていたエル・ファニングの演技に感動。だから近いうちにこの作品を読もうと思っていた。ホラー作品のつもりで読んだのに、最初に書いたようにとても切なく、哀しい物語だった。
文学作品としての側面も強く、とても素晴らしい小説だと思う。なんとなくストーリーを知っていたけれど、まさかこれほど哀しい物語だったとは。この小説を読んで、まず現代人が大きな誤解をしていることに気づいた。
人造人間である怪物を指して、一般的にはフランケンシュタインと呼んでいる。そしてその意図でいくつも映画が作られている。だけど原作において、この怪物に名前はない。怪物を作ったのが、まだ若い天才学生のヴィクター・フランケンシュタインという人物。
ヴィクターは怪物のことを、悪魔だとか悪鬼だと呼んでいた。名前をつけて慈しんだ形跡はない。この物語の悲劇はそこにある。
有名な物語なので詳細は省く。この作品が恐怖ではなく哀しみを誘うのは、まず怪物の知能がヴィクター並みに優秀で、心優しい感性豊なキャラだったということ。だけど見かけが怪物ゆえ、誰からも相手にしてもらえない。
ヴィクターの実験室から脱走して、ある家族の納屋に隠れて過ごす。そこで言葉を学び、芸術等についての理解も得た。だけど孤独だった怪物は、その家族との接触を悩みつつも決行する。もちろん受け入れられることなく、怪物として攻撃される。
この深い孤独ゆえ、怪物は自分を作ったヴィクターを憎んだ。そしてヴィクターも自分の行為に絶望していて、怪物をこの世から消したいと思っていた。怪物がヴィクターに望んだのはたったひとつ。自分と同じ女性の怪物を作ってほしい。そうすれば人里離れた場所でこっそり二人で暮らすと言った。
ところが同じ過ちを繰り返したくないヴィクターはその申し入れを拒否。結果としてヴィクターの弟、親友、そして結婚したばかりの新妻までが怪物に殺されてしまう。そこでヴィクターは復讐を誓って怪物を追いかけるが、その目的を果たせないまま病没してしまうという結末。
生命を創造してしまったというヴィクターの罪悪感。そして耐え難い孤独という地獄の苦しみから解放されたい怪物の想い。それらが複雑に絡み合って、とても切ない物語となっていく。こんなすごい作品を、19世紀の女性が書いたことに驚く。心に残るとても素晴らしい物語だった。
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