無益なのに誰も止められないもの
今朝のブログでもそうだけれど、ウクライナ情勢が気になるので戦争について考えてしまう。この戦争によってウクライナの国民はもちろん、侵攻したロシア人でさえ死ぬ必要のなかった人が命を落としている。さらに戦争によるエネルギー危機によって、ヨーロッパの人たちとって辛い冬となるのは確実。
誰にとっても無益でしかない戦争。なのに誰も止めることができない。プーチン大統領の思惑次第で戦争終結となるのは事実。だけど過去の歴史を見ていると、権力者は戦争を始めることができても、自力で止めることができないような気がする。ヒトラーの生涯がそのことを証明している。
もしかすると戦争という愚かな行為には、人間の手が及ばない『魔』が潜んでいるのでは? 誰も望んでいないのに戦争が起き、誰もが停戦を望んでいるのに思うように止められない。ある漫画の最終回を読んで、そんなことを感じてしまった。
2022年 読書#117
『石の花5』坂口尚 著という漫画。第4巻についての感想は『極限状態で壊れる人間性』という記事に書いているので参照を。
第二次世界大戦でドイツの侵攻を受けたユーゴスラビアの人たちを描いた物語。全部で5巻あって、ついに最終回を読了した。いまは存在しないユーゴスラビアという国は、複数の民族によって成り立っていた。それゆえ、戦争が起きたときには民族間の軋轢が浮き彫りになってしまった。
ドイツという共通の敵があるのに、ユーゴスラビアの人たちは内戦状態となった。ドイツと戦いながらも、同じ国の人間たちに銃を向けなければいけない。多民族国家であり、かつ敵対する国と陸続きであること。これは日本人の理解を超えるだろうと思う。
最終巻では終戦までが描かれていた。共産主義の組織を母体としたパルチザンに参加していた主人公のクリロ。敵の攻撃と飢えに苦しみながら、ひたすら戦い続けた。だけど仲間だった兵士たちは地雷を踏んだことで全滅する。生き残ったのはクリロだけだった。
終戦後自宅に戻ったクリロは、ドイツのスパイだと疑っていた兄のイヴァンの手紙を読んで涙を流す。殺されてしまった彼はドイツのスパイではなく、あくまでもユーゴラビアのために戦ってきたのを知ったから。
戦争中の戦功によって、クリロは勲章を授けられることになる。だけど彼はそれを拒否した。そして上官に向かってこの戦争がどれだけ無益だったかを口にする。結局人間は戦争をやめられない。本当の平和は、戦争に勝つことで得られるものではないと自分の思いをぶつけた。
かりそめの平和を享受すれば、いずれ人間はまた戦争をするだろう。そう語るクリロの言葉は、その後のユーゴスラビアの混乱を示唆しているようだった。それでもラストは少しホッとできた。収容所で命を落とす寸前だったフィーと再会する。長い物語だったけれど、ユーゴスラビアの悲劇を通じて、戦争というものの実態を少しは感じられたように思う。
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