他者への想像力を極めた男
早いもので、今日から6月。カレンダーをぼんやり見ていると、虚しくときが過ぎていくだけだと感じたり、それなりに頑張っているよとなぐさめてみたり、時計の振り子のように自分の心がゆれ動いている。
まぁ、圧倒的な結果を出せていないから、こんな中途半端な気持ちになるんだろう。ゆれるのは仕方ないとしても、せめてそのゆれ幅を大きくしたい。
狭い範囲を行ったり来たりしているより、大きくゆれるほうが人生は愉快だ。思い切り喜んだり、思い切りへこんだりしたい。それは精一杯生きているから、感じられることだろう。
今月は節目である夏至がやってくる。自分のテーマを見直す時期なので、こうしたことを考えるのにちょうどいい。実はすでにテーマが決まっていて、それに関することを今朝のブログでとりあげた。
書いたのは他者への想像力について。人間にとって必要不可欠なものだけれど、それを完璧に極めた男の映画を観た。
『レッド・オクトーバーを追え!』という1990年のアメリカ映画。この作品は反復シリーズではなく、完璧に記憶している。大好きで何度も観たから。それでもかなり久しぶりに観たけれど、やはり文句なしに面白い。
舞台はソ連とアメリカが冷戦の時代。レッド・オクトーバーというソ連が開発した原子力潜水艦は『キャタピラー・ドライブ』という、アメリカが開発できなかったシステムを有している。まったく音がしない、無音潜行が可能だ。
だからソナーで探知されないので、気づかれずにアメリカ領海に侵入して、核ミサイルを発射することができる。その試験航行に出たレッド・オクトーバーとともに、ソ連の潜水艦が大挙して出航している。
アメリカとしては冗談じゃない。もしかすると先制攻撃をしかけてくるのではないか、と懸念するのも当然。ところがソ連軍の動きには理由があった。レッド・オクトーバーの艦長であるラミウスは、内々にアメリカへ亡命することを手紙に記していた。部下の士官もそれに同行している。
最新の技術を駆使した潜水艦をアメリカに奪われるくらいなら、亡命しようとするラミウスともども海に沈めようとして、クレムリンは大艦隊を差し向けていた。そしてソ連の大使館からアメリカに偽の情報が流される。
乱心したラミウスが、アメリカを先制攻撃しようとしている。協力して沈めて欲しい、というものだった。
ところがCIAの分析官であるライアンは、それが嘘だと見抜く。ラミウスのことを知り尽くしているライアンは、彼が亡命するためにアメリカへ向かっていると主張する。それは他者への想像力を駆使した結果。
ここからが映画の見どころ。アメリカの潜水艦であるダラスに乗り込んだライアンは、ラミウスとやり取りすることで、彼の真意を知ろうとする。亡命するならこっそり出ればいいのに、彼はわざわざクレムリンに亡命することを伝えている。
それには理由があった。亡命するのは士官だけで、乗組員を巻き添えにできないので、ラミウスが周到に計画したうえでの行動だった。
ライアンはその理由も見抜いてしまう。離れたふたりの心が通じ合う過程は、この映画の醍醐味。どのような理由があって、さらにその結果どうなったかが気になる人は、ぜひ観て欲しい。よくできた話なので感動するよ。
ラミウスを演じたショーン・コネリーと、ライアンを演じたアレック・ボールドウィンは最高! ふたりとも今に比べて若いけれど、本当に素晴らしい演技だった。
さらにダラスの艦長役をしていたスコット・グレンが、めちゃめちゃかっこいい。スコットは翌年に公開された『バック・ドラフト』でもアレックと共演して、放火犯の消防士を演じている。ボクは『羊たちの沈黙』のスコットも大好き。
小説の話だとはいえ、人間が他者への想像力を極めると、これほどのことができると教えられる作品。そんなアホな、と思う人は、まだ想像力が足らないのかもね。偶然に見えるようなことさえも、察知するのが本当の他者への想像力だろう。いい映画は、何度観てもいいよね。
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