SOLA TODAY Vol.614
図書館は、出版業界そして著者にとって敵か味方か?
日本の出版業界は、敵だと見なしている人たちが多数を占めている。大手出版社の経営者が、自社の文庫本の貸し出し中止を要請したことがある。それに賛同する出版社や著者も多くいた。
本が売れないのは、様々な要因が複合的に影響している。図書館だけの責任ではない。だけど「無料貸し本屋」だと見なされて、攻撃の矢面に立ってしまった。
ところがアメリカの出版業界は、図書館に対してまったく正反対の行動を取っている。
「無料マーケティング」としての図書館の存在意義を認めたアメリカの出版社
アメリカの出版業界も、以前は日本と同じ対応をしていたらしい。だけど近年になって、その対応を大幅に変えている。出版不況なのはアメリカも同じ。だけど図書館を敵と見なすのではなく、味方に取り込むという発想に方針転換している。
アメリカでは毎年5月の末から6月にかけて、全米的なブックフェアが実施されるらしい。出版社だけでなく、著者や文芸エージェント、そして全米の書店も参加する。最新作をプロモートすることで、出版業界を盛り上げていこうという催しになっている。
その本大会の前日に、大勢の人を集めた前夜祭が企画されている。招待されているのは全米の図書館関係者。出版社がよりすぐった数冊の「注目本」が、ベテラン編集者によって紹介される。
参加した人の特典として、ARC(アドバンス・リーダー・コピー)と呼ばれるものが配布される。刊行前の宣伝用に作れらたペイパーバックで、実際の本よりもデザイン等にお金がかけられているらしい。そんな特別な本をもらえて、さらに出版前に読むことができる。だから図書館員たちの取り合いになるとのこと。
最近の司書たちは、図書館からメールマガジンを発行している。さらに個人のブログ等で情報を発信している人もいるだろう。そうした場で、これらの新刊を紹介してもらえる。出版社はそこに目をつけた。
そうして注目本を紹介されると、つい読みたくなる。もちろん図書館に置かれることになるので、出版社にしても図書館は本を購入してくれるお客さんでもある。だけど冊数に限りがるので、そこそこ裕福な人は待てずに書店で買ってくれる。
結果として図書館での情報で火がつき、ベストセラーとなった本がいくつもあるとのこと。アメリカは電子書籍での貸し出しもスタートしていて、そこからでも出版社は利益を得ている。図書館は「無料マーケティング」として、見逃せない存在だという判断なのだろう。
日本でも同じことを実践した人がいる。それは漫才師であるキングコングの西野亮廣さん。『革命のファンファーレ』という最新のビジネス本を、自腹で希望する全国の図書館に贈呈している。そんなことをしたら、図書館で借りる人が増えて本が売れないと思うのが普通。
だけどこの本はベストセラーになっている。たしか30万部は超えていたはず。西野さんは自分の絵本を、あえてネットで無料公開するということもやっている。だけどその本は絵本では想像を絶するベストセラーになっている。
それは『無料』というものが持つ魔法だと思う。アメリカの出版社は、そのことに気づいたのだろう。ところが日本は図書館を敵だと見ている。昨日も京都駅近くにある、三省堂という有名な書店が閉店するというニュースを見た。このままでは、日本の出版業界は沈む一方かもしれないね。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。