この話のオチは最恐だった
今日ある人が、Twitterで眼から鱗が落ちるような呟きをされていた。なるほどなぁ、と感心した。
親や教師は子供に対し、多くの本を読むように言う。たしかに本をたくさん読むことは、メリットしかないようにボクも思う。だけどその人のツイートは、読書の本質を鋭く指摘したものだった。
『多くの本を読むのは、人生でかけがえのない一冊に出会うためじゃない。たまたま出会った本に人生を狂わせられないようにするため』というような内容。
この人はある出版社の編集者だけに、余計に説得力がある。人間は多くの知識や意見を取り入れていかないと、物事の部分を全体と誤解してしまうということだろう。ある種の宗教や政治思想に走ってしまう人も、もしかしたらたまたま出会った本に人生を狂わせられたのかもしれない。
ボクはこのTwitterを見て、観たばかりの映画のことを思い出した。その映画では物語に見えていないものが、最後になって強烈に語りかけてきたから。そして本気で怖いと思った。
『ロード・オブ・ウォー』という2005年のアメリカ映画。実話を基にして作られているので、ちょっとシャレにならないほど怖い作品。いわゆる『死の商人』と呼ばれている武器商人を主人公にした物語。
ニコラス・ケイジ演じるユーリは、ユダヤ人を装って家族四人でウクライナからアメリカに移民してきた。そして料理店を営んでいたけれど、生活は苦しい。だけどユーリがたまたま見かけてロシアマフィアの抗争によって、銃が金になることを知る。そして武器商人の仕事を始める。
最初はイスラエルから銃を仕入れて、マフィアに売るような程度だった。だけど商才のあったユーリは、その仕事を世界各国に広げていく。内戦やゲリラ戦等、武器を欲しい組織は多い。最初は紛争地でアメリカ軍が現地に置き去りにした武器を安く仕入れて、それらをゲリラたちに売っていた。
そのうちソ連が崩壊する。彼の出身地であるウクライナは独立することになり、ソ連製の武器を大量に抱えていた。冷戦が終わったことでそれらは不要でしかない。そこでウクライナ軍の軍人である叔父を頼り、ウクライナの武器を大量に横流しする。
まさに『死の商人』で、ユーリが調達した武器で多くの人が命を落とす。だけどユーリは人を銃で撃つことはないし、自分は必要なものを仲介しているだけだと割り切っていた。そして世界中に顧客を持つ、大金持ちの武器商人へと成り上がっていく。
ただ武器の密輸を追いかけている捜査官がいた。ジャックという人物で、イーサン・ホークが演じている。ジャックの粘り強い捜査によって、ようやく彼はユーリの犯罪の証拠を握る。その結果、ユーリーの妻は息子を連れて家を出る。一緒に仕事をしていた弟は商取引の最中に殺されてしまう。そしてユーリは両親からも断絶される。
そんなどん底のユーリは、ラスト近くでジャックに逮捕された。それなのにユーリはまったく動揺していない。一生刑務所から出られないことになる、とジャックに言われても平然としている。やがてユーリがその理由を話す。
「俺が刑務所に行くことはない。もうすぐしたらその扉がノックされて、俺は釈放される。なぜなら俺の最大の顧客は、お前のボスのボスのボスである、アメリカ大統領だからな」と。
そしてユーリの言ったとおり、彼は釈放されるというラストシーン。国家としては合法的な武器輸出で対応できない場合がある。そんなとき、国家はフリーランスである個人の武器商人に取引を代行させてきた。だからアメリカ政府としては、今後もユーリが必要だということ。
そしてユーリは最後に語る。俺の1年分の武器の取引を、アメリカは1ヶ月でやっていると。そしてエンドロールに入るとテロップが流れる。
世界で最も多くの武器を輸出しているのは、アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国の五カ国。そしてその五カ国は、国連の常任理事国でもある、というテロップで終わる。
平和を維持するはずの国連の常任理事国が、世界最大の『死の商人』だったというオチ。これほど恐ろしい話があるだろうか。とてもよくできた作品なので、まだ観たことがない人は、絶対にこの事実を目の当たりにしたほうがいいと思う。これほど効果的な反戦映画はないと思う。
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