侮辱罪の厳罰化に効果はあるか?
刑法が改正され、昨日の7月7日から侮辱罪が厳罰化された。「1年以上の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」という項目が追加されている。
名誉毀損は具体的な事実をあげることによって有罪となる。だけど侮辱罪は具体的な事例をあげなくても、相手を不当に罵倒するような場合にでも適用される。要するにネットにおける誹謗中傷に対応した法改正だということ。
これを受けてネットでの侮辱は減るのだろうか? 侮辱や誹謗中傷というのは、複雑な心理状態を背景に持っている。侮辱している人の心理を支配しているのは「正義」だということ。自分のやっていることが犯罪であるかどうかに関係なく、その人が思い込んでいる「正義」に基づいて相手を罰しようとしている。
極端な話、暴力や殺人をする人であっても、その人物なりの「正義」があって行動を起こしている。その根拠がどれだけ自分勝手で理不尽なものであっても、本人にとっては「正義」の鉄槌を振り下ろしていることになる。
侮辱罪が厳罰化されたことで、人間の心理はどのように働くか? 直接に関係ないけれど、とても興味深い研究結果が報告されている。
「報酬」が出ると罰する行為への意欲が半減すると判明! 正義のヒーローが報酬を断る理由
リンク先は、アメリカのカリフォルニア大学の研究結果をまとめた記事。1500人の被験者に対して行った心理実験。詳しい内容は記事を読んでもらうとして、結論だけを抜き出しておこう。
『道徳的正義のために罰を下すことに対して「報酬(現金)」が与えられるようになると、人間は新たに罰を下す意欲が半減することが判明した』
これは面白い。相手の不正を正す行為に対して報酬が与えられると、その相手を罰する気持ちが失せてしまうらしい。つまり不正を正す行為は道徳心から出るものであって、報酬を得るのが目的ではないという信念があるから。
報酬をもらって誰かに罰を与えるという行為は、不正を行うよりも悪い行為だと感じる人が圧倒的だったそう。これはなんとなくわかるような気がするし、この研究結果に納得できる。
正義のために誰かを罰するとき、心のどこかで自分の正義を正当化しているはず。でないと罪悪感を覚えてしまうから。それゆえ罰する行為に報酬を与えられると、自分の信じている「正義」が損なわれるような気持ちになるのだろう。
この心理が人類共通ものだとすると、侮辱罪の厳罰化の効果が疑われてしまう。リンク先の記事でも述べられているけれど、この心理が働くことによって、自らの行為を正義と信じて実行される犯罪では、罰金刑が抑止として有効に機能しないということになってしまう。
罰する行為に報酬を出されたら気持ちが萎える。だけど逆に罰金を取られるとしたら、怒りの感情に対して火に油を注ぐようなことになってしまう。そう思うと今回の侮辱罪の厳罰化は、人間心理的にはあまり効果が期待できないかもしれないね。
ただし、記事の最後に気になることが書かれていた。罰を下すことで得られる報酬が莫大なとき、あるいはその行為に関して大勢の道徳的な支持が得られたなら、罰する行為の半減効果は認められないとのこと。報酬の金額と、他人の支持次第だということ。
人間の心理って、複雑でやっかいだよなぁwww
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