根なし草は自由だけれど孤独
アメリカのハードボイルド小説の主人公なのに、どうしてもフーテンの寅さんを思い出してしまうキャラがある。
『男はつらいよ』の寅さんは、一度だけ本気で世帯を持とうとしたことがある。浅丘ルリ子さん演じるリリーと沖縄で暮らした。だけど寅さんという人は、根なし草と同じで、ひとつの場所に留まることがどうしてもできない。家庭に憧れつつも、定住地に落ち着くことができない人だった。
まさにその寅さんとリリーのような人物が登場する小説を読んだ。そして結末は寅さんと同じだった。
2021年 読書#114
『ネバー・ゴー・バック』下巻 リー・チャイルド著という小説。上巻の感想については『看板に偽りあり、かもね』という記事に書いているので参照を。
いつも寅さんを思い出すのは、この物語の主人公であるジャック・リーチャー。陸軍時代は第110特別部隊という軍警察の部隊長だったジャック。だけど退官してからは定住地を持たず、アメリカ全土を旅して暮らしている。そしてその度に事件に巻き込まれてしまう。
そんなジャックが、今回は声だけで一目惚れした人物がいた。スーザン・ターナーという女性で、ジャックと同じ部隊の部隊長をしている。『61時間』という物語でスーザンに協力してもらったジャック。そのお礼を兼ねて、一度彼女に会いたいと思っていた。もちろんデートに誘うため。
ところが懐かしい元の部隊にやってくると、スーザンは反逆罪で拘束されていた。さらにジャックまで過去の傷害事件と、民事訴訟によって子供の養育費の支払いを求められることになった。結論から言えばそれはすべて罠。スーザンの冤罪を明らかにされないため、ジャックを遠ざけようとしたのが目的。
ところがジャックは黙っていない。スーザンを助け出して、真相を究明しようとする。それが上巻の物語。下巻ではその真相に迫っていく。
映画化もされているけれど、物語はかなりちがう。黒幕が麻薬取引を隠していたのは同じ。だけどそこに至る過程はかなりちがっていた。それはトム・クルーズのキャラと、原作のジャックがまったくの別人だから。
原作のジャックなんか、旅客機内で彼を追ってきた軍人の二人を動けないようにしてしまう。指の骨を折ったり、腕を折ったりしてね。とにかくやることがクールでエグい。決して怒らせてはいけないキャラの一人だろうwww
事件の詳細は割愛しよう。とにかくジャックとスーザンのコンピは最高。二人とも同じ部隊のリーダーを任されるくらいだから、本当に息がピッタリ。どちらも強いし、アイデアもすぐにまとまる。これまでこのシリーズを読んできたけれど、ジャックとスーザンはベストカップルだと思う、
まさに寅さんとリリーと同じ。だけどその結末までも寅さんと同じことになった。事件が解決すると、スーザンはやはり部隊長に戻ることを望んだ。だけどジャックは定住することができない。何度もベッドと共にした二人だけれど、同じ未来を生きるということは無理だった。
ジャックとすればスーザンと暮らすことで孤独が消えても、自由を失いたくなかったのだろう。それは寅さんと同じ。だからこそこのシリーズはさらに続くことになる。さて、ジャックの次のマドンナはどんな女性なんだろう? スーザンを超える女性が登場するのかどうか気になるところ。楽しみだなぁ。
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