神の信仰に必要な悪魔
人間の脳における認知機能を支配しているのは二元性。ある事実を認識するのに、反対の性質を持つことがらを無意識に使用している。光と闇、善と悪、男と女というように、現実世界にあるすべての存在は究極的には二元化の意識なしに認知されない。
光という概念が理解できるのは闇が存在するから。闇を認めることによって、光が持つ真の性質を理解できる。つまり闇の存在は人類にとって無意味ではないということ。これは哲学的な考察だけれど、この関係を神と悪魔という対立要素で映画化した作品を観た。
2022年 映画#98
『ザ・ライト -エクソシストの真実-』(原題: The Rite)という2011年のアメリカ映画。
1973年に公開された『エクソシスト』という有名なホラー映画がある。実話をもとにして作られた作品で、悪魔に取り憑かれたリーガンという少女の首が180度回転したり、口から緑色の液体を吐き出したりと、映画史上に残る名シーンの連続という作品だった。
もちろんボクも公開当時に観たし、それ以降も数えきれないほど再見している。キリスト教で悪魔祓いを意味するエクソシストという言葉を、この映画を通じて知った人は多いはず。
現代のキリスト教においてもエクソシストを生業としている神父がいるそう。この作品はそんな神父たちの実話をもとにした作品。『エクソシスト』という作品のインパクトが強いのであまり期待していなかった。だけ思っていたよりずっと面白い作品で、現代版の『エクソシスト』として楽しめる内容だった。
主人公のマイケルは葬儀屋の息子。少年時代に母を亡くしてから、神を信じなくなっていた。田舎町に暮らす彼にとって選択肢は2つ。父の後を継いで葬儀屋をするか、神学校に進学して神父になるか。
町を出たかった彼は、迷うことなく神学校に進学することを決めた。神学校では神父になる宣言をする前に学士の資格を取れる。だから大学卒業資格だけ取って、神父になる前に神学校から逃げるつもりだった。ところが彼の才能を見抜いたマシュー神父は、ローマに行ってエクソシストの講習を受けるように勧める。それでも神父に向いてないと思うのなら、もう止めないとのことだった。
バチカンでは志願者を集めてエクソシストの講習を開いている。やはりマイケルの才能を見抜いた講師のザビエル神父は、現役のエクソシストであるルーカス神父の助手として経験を積ませることにした。このルーカス神父を、アンソニー・ホプキンスが演じている。
マイケルは無神論者。神を信じないということは、当然ながら悪魔の存在も信じていない。悪魔に憑依された若い妊婦をルーカスに見せられるが、統合失調症だと判断して、エクソシストより精神科医の治療を受けさせるべきだと進言する。
何が起きても悪魔の存在を信じないマイケル。だけど妊婦が原因不明の失血死をしただけでなく、悪魔に取り憑かれた少年がマイケルしか知らないことを口にして動揺する。やがて妊婦に取り憑いていた悪魔がマイケルに挑んでくる。
なんとその悪魔はルーカス神父に取り憑いてしまった。なんとかしてルーカス神父を助けようとするが、悪魔に『疑う者』と信仰心の無さを揶揄されたマイケルは何もできない。このままでは自分も殺されそうになったとき、ようやく悪魔が存在することを認めた。
そしてそれは、神の存在を認めることでもある。この段階で信仰心を取り戻したマイケルが、ルーカス神父から悪魔を追い払うというエンディング。そしてアメリカに戻って神父になった。
エンドロールによると、マイケルは2011年の段階でアメリカに14人しかいないエクソシストの一人とのこと。そしてルーカス神父も、イタリアのフィレンツェでエクソシストとして活動しているそう。
悪魔を容認することで、神へと至るマイケルの心の動きが見どころだった。さらに憑依される前と、憑依されてからのギャップを恐ろしいほど完璧に表現したアンソニー・ホプキンスの演技に圧倒された。悪魔に取り憑かれているときの彼は、『羊たちの沈黙』のレクター博士より怖かったwww
キリスト教色が強いけれど、ホラー映画としてよくできた作品だと思う。エグい映像もないので、ドキドキしつつも安心して観ていられるよ。
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