大村あつしオフィシャルブログ

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　私が大学生のとき、近所に気前のいい定食屋がありました。どれくらい気前がいいかと言うと、ご飯の無料お代わりなんて当たり前。値引きも当たり前。なんと、「代金はいらない」と言うのです。おやじさんに、「今月はお金が苦しい」とか「このあと深夜のバイトだよ」なんて言うと、「そんな苦学生からお金は取れないな」と無料にしてくれるのです。

　しかし、そんな過剰なサービスがいつまでも続くはずがありません。あるとき、本当にお金が苦しかった私は、焼肉定食をかき込みながら、「おじさん、今月苦しんだよね、ボク」と話しかけました。「この焼肉定食、無料にしてよ」の合図です。今、思い出しても、なんとずうずうしい学生だったのかと、穴があったら入りたい気持ちです。

　ところが、その日のおやじさんの態度はいつもと違いました。「大村君、五百円硬貨あるか？」と聞くので、「ありますよ」と答えると、「じゃあ、端数の五十円はサービスだ。その代わり、その五百円を置いていってよ」と言うのです。

　そのとき、私は、本来なら五十円得をしているのに、「五百円損した」という気分になりました。随分と身勝手な話ですね。

　もちろん、一番責められるべきは、まだ子どもだったとはいえ、そして苦学生だったとはいえ、無料サービスが当たり前と感覚が麻痺してしまい、おやじさんの厚意に甘え切っていた私の心根であることは疑いようがありません。

　しかし、人間は慣れの動物です。どんなサービスでも、最初は嬉しくても、しだいに、それが当たり前と感じるようになります。そして、サービスをしてもらえないと、それが本来の姿なのに、「損をした」と思ってしまうわけです。

　このおやじさんは、本当に心の優しい人だったのですが、ビジネスとして定食屋を営んでいるのに「代金はいらない」なんて、今にして思えば「いい人過ぎた」感があります。

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