恐怖には依存性があるのかも
連休の終了を待っていたかのような雨。それもかなり本降りの雨です。
風が強くないのでずぶ濡れになることはありませんでしたが、それでも買い物に行って帰るだけでかなり濡れました。気温も低めのようで、少し肌寒い雨でしたね。
でも久しぶりの雨なので、植物たちは喜んでいるような気がしました。紫陽花は花を咲かせる準備中ですから、雨粒を受けてワクワクしているように見えます。もうすぐ自分たちの季節がやってくるのを知っているのでしょうね。
そんな紫陽花とは対照的に、連休が終わり雨の月曜日を迎えた人間は、うんざりした気分で通学や出勤をした人が多かったかもしれませんね。カーペンターズの名曲に『雨の日と月曜日は』作品があります。この曲の気分で出かけた人も多いのではないでしょうか。
「雨の日と月曜日は、いつも私を落ち込ませる」
この曲のサビの歌詞が聞こえてきそうな今朝の雨でした。水曜日くらいまで雨が降りやすい天気のようですが、この季節の雨は命を育てる雨です。雨を受けて植物たちが喜ぶ様子を想像していると、腹の底からエネルギーが湧いてくるような気がします。これこそが想像力の正しい使い方でしょう。
ところが人間の想像力が恐怖に向かって働いたとき、恐れに対する依存性を誘発するのでは? と思わせる本を昨晩読了しました。
『ゴーン・ガール』ギリアン・フリン著の下巻を読了しました。
やっぱり原作は面白い! この本を読むきっかけは映画でしたが、先に原作を読んで映画を観たほうがよかったかな、と思うほど素晴らしい小説でした。ベストセラーになったのが納得できます。
先日のブログで書いたとおり、捏造された日記でしか知ることのできなかったエイミーの本性が下巻で登場します。おそらく著者は心理学等の本も研究されているのでしょう。エイミーは完璧なサイコパスです。しかも頭が抜群にいい。だから見方によっては、とても魅力的な人物なのです。かなり怖いですけれど……。
そして人間味に溢れている女性でもあります。2年近くをかけて用意周到に夫を殺人犯にしたてようとします。自分も実際に死んで、遺体となって発見されるまでの計画をしていました。
この先は映画のネタバレになりますので、映画を見たい方は読まないでくださいね。
ところがエイミーは途中で考えを変えます。あのリックのために自分が死ぬことが納得できない。生きて夫が死刑になるのを見届けたいと思うようになります。ところが死ぬつもりだったから、それほど所持金はありません。さらにその金銭を強盗まがいの状況で奪われてしまいます。そこで過去の恋人を利用して、とんでもないことをやらかしてしまうわけです。
エイミーがニックの元に戻ってきてからは、映画ではさらっと過ぎてエンディングになります。でも原作はそこからが面白い。ニックは明らかに殺意を持っています。自分を殺人犯に仕立て上げようとしたのに、過去の恋人を惨殺してまで戻ってきた。それも彼女にとって都合のいい状況を作り出してです。
エイミーを殺すことはできなくても、ニックは彼女が逮捕されることに執念を燃やします。自分を殺人犯だと疑っていた女性刑事のロンダと、双子の妹であるマーゴと連絡を取り合い、エイミーを逮捕する証拠を集めようと必死になります。
ですから家を出るわけにはいきません。もしかしたら眠っているあいだに殺されるかもしれない。そんな恐怖を抱えながら、ニックは妻との生活を続けます。ところがどっこい、その恐怖によって彼は変化していきます。
ニューヨークでライターを失業してから、自堕落な生活が続いていました。ところがいつ殺されるかもしれない恐怖と緊張感によって、昔のニックがよみがえります。殺されることに怯えることで、エイミーにとって最高の夫へと変貌していくのです。その微妙な変化が原作ではとても面白く描かれています。
そしてどうやら、その恐怖には依存性があったようです。それなしでは生きていけなくなり、エイミーから離れがたくなってくるのです。それでも暴露本を出版して妻を警察に突き出すつもりでしたが、エイミーはさらに上手です。過去に保存していた夫の精子を使って妊娠します。
子供がどうしても欲しかったニックはますます家を出る気持ちがなくなります。さらにあの恐ろしいエイミーから子供を守らなくてはいけない。結局、原稿を破棄して妻の指示に従うことになります。そして妻は逆に、彼女にとって有利な本を出版するという結末です。
人間は恐怖を感じると、身を守るために『今、ここ』に集中します。そして『今、ここ』に存在することは、人間が本来いるべき場所ですから心地いい。危険な冬山に登る人と、同じ心理状態だと思います。だから恐怖には依存性があるのかもしれません。
すっかりこの著者のファンになってしまったので、他の作品も読んでみるつもりです。ちょっと怖いですが。
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