歪んだ愛が招いた呪い
何かを愛するということは、同時にその対象が失われる恐怖がついてまわる。恋人を愛する人は、相手が自分から離れることが怖い。お金を愛する人は、お金を失うことを全力で防ごうとする。人はどうしても奪われたくない『もの』があったときどうするか?
そんなことをテーマにした小説を読んだ。
2021年 読書#129
『この本を盗む者は』深緑野分 著という小説。2021年本屋大賞にノミネートされたことでチョイスした本。とてもユニークな構成で、わかりやすく言えば『不思議な国のアリス』のような物語だった。
主人公は御倉深雪という女子高生。架空の街である読長町が物語の舞台。書物の蒐集家であった曽祖父は、御倉館という私設図書館を作った。蔵書数はとてつもない数になり、大勢の人が珍しい書籍を求めて御倉館へやってきた、
ところが曽祖父の跡を継いだ祖母は、200冊もの蔵書が盗まれたことで御倉館を閉鎖した。それが祖母の死後、深雪の父の代になっても続いていた。莫大な量の蔵書を管理しているのは深雪の叔母。そんな御倉館で不思議なことが起きる。
御倉館には祖母がある呪いをかけていた。御倉一族以外の人間が蔵書を御倉館から持ち出したとたん、「ブック・カース」が発令する。本にかけられた呪いが犯人だけでなく、読長町全体に実行されて異世界へと移行してしまう。
時間が経つと人間はキツネに変わってしまう。「ブック・カース」は、孫の深雪が指定された本を読むことでスタートする。その物語の世界のままになり、住民たちは本当の自分を忘れ、登場人物になりきってしまう。呪いを解くには、深雪が犯人を見つけて本を取り返すしかない。
という設定で物語が進行する。本当に不思議な物語で、真白(ましろ)という謎の犬女性が深雪を助ける。ラストには呪いの謎も、そして真白の正体もわかるという展開。本に対する祖母の愛が歪んだことで、呪いへと変容したということ。裏返せば、本への愛が詰まった物語だった。
ただ個人的には非常に読みづらかった。なぜだろう?
おそらく文章のリズム感が合わないからだろうと思う。小説には作家が有する独自のリズムがある。最初からなじめる著者もいれば、読み進むうちにリズムに乗っていける著者もいる。だけどこの作品のリズムとは、ボクは最後まで噛み合わなかった。
ストーリーは面白いし、個人的に好きなジャンル。だけど不思議なことにリズムがつかめない。なんだろうね? こればかりは人間の相性と同じで、どうしようもないのかもしれないなぁ。だけどこの小説を読むと、もっともっと本を読みたいと感じる。本に対する愛をめいっぱい感じられる作品だった。
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