ぶち壊して再構築する感動
絶対に壊れないと思っていたものが、徹底的に破壊される。言葉にできない絶望感に落とされたあと、それがいきなり再構築されることによって尋常ではない感動に包まれてしまう。まさにそんな感動を体験できる小説を読んだ、
2022年 読書#30
『おれたちの歌をうたえ』呉勝浩 著という小説。この作品はとてつもなく懐が深い。最初は幼なじみたちの友情物語かと思った。ボクとほぼ同世代の主人公たちなので、時代背景もリアルに感じられた。
ところがすぐにハードボイルドのような展開になり、やがてミステリー作品の様相を帯びてくる。それらが混ざり合って、最終的には友情物語として帰結する。とにかく長くて、単行本で600ページもある作品。だけど読み始めると止まらなくなってしまう。
まだ新しい作品なのでネタバレはやめておく。概要だけを紹介しておこう。主人公たちは1960年生まれの5人。
河辺久則
五味佐登志
外山高翔
石塚欣太
竹内風花
という5人。彼らが小学生のころ、逃亡していた左翼の過激派を見つけて通報したことで、『栄光の五人組』と呼ばれていた。その後も高校生になるまで彼らの友情は続く。風花という紅一点がいることでスティーブン・キングの『IT』という小説とイメージが重なる。
ところが昭和51年に事件が起きる。風花の姉である千百合が遺体で発見される。彼ら『栄光の五人組』は風花の姉を殺した犯人を見つけるため独自に調べる。やがてある容疑者を五人は確定させる。だけどそれは高校生たちがやらかした大失敗だった。
子供たちの捜査を信用した風花の父親は、その容疑者の家族を銃で殺して自殺してしまう。風花は大量殺人の娘として街を離れ、他の4人も以前の関係でいることができず、罪の意識を背負って別々の道を歩むことになる。
メインの主人公は河辺久則で、彼は上京して警視庁の捜査一課の刑事になる。だけどこれまた平成11年にある出来事が起こり、河辺は刑事を辞めてデリヘル運転手として生きることになった。物語はこの時代の河辺に連絡が入ることで始まる。
五味が死んだという連絡だった。彼はある若いチンピラに、自分が死んだら河辺に連絡するよう遺言していた。そしてある暗号を残していた。それは金塊の隠し場所だとチンピラは聞かされていた。それで河辺と協力することで金塊を探そうとする。
ここからはかなり複雑な物語になり、過去と現在が行き来する。物語の途中で語られるのは、彼ら五人組の友情がバラバラに崩壊したこと。絶望的なまでに五人の関係は破綻してしまう。ところが後半になって、その崩壊が再構築されていく。そのきっかけが五味の残した暗号だった。
犯人は明かさないけれど、五味の暗号は千百合を殺した真犯人に関するものだった。河辺は高校生のころの失敗をリベンジするかのように、死んだ五味の残した暗号を解読していく。そして真犯人に迫っていくという物語。
この小説の魅力は、実際に読まないと感じられないと思う。独特の世界観があるので、そこに飛び込んでいくことで主人公たちに感情移入していける。そして最後まで読めば、この小説のタイトルの意味がわかる。読了するのに時間はかかったけれど、読後の心に爽やかな風が吹き抜ける素晴らしい物語だった。
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