ガストンとの対話 Vol.93
ガストンさん、今日は批判、あるいは判断ということについて対話したいと思います。私たちは人間であれ、出来事であれ、物であれ、自分勝手に判断を加えて批判します。好き嫌い、良い悪い、合う合わない等、瞬時に様々な判定を下しています。この行為こそが人生に様々な問題を引き起こしているのではないかと思っています。
「鋭い洞察だな。まさしく全ての不和や紛争の原因はそこにある。物事全てに好き勝手な判断を下すというこの習癖が、人間の意識の覚醒を阻害している」
でもその習癖を手放すことは、とても困難に感じます。人によって程度の差はあれ、何らかの判断を無意識に行っています。この批判や判断というのは、いったいどのような経緯でトラブルを引き起こすのでしょうか？
「わかりやすい例えで言えば、人間全員が裁判官であると想像すればいい。この世に生まれて物心がついた頃から死ぬ瞬間まで、人間は厳格に法律を遵守する裁判官なのだ。問題となるのはその法律だ。全ての人間が全く違った法律によって判決を下している。同じ出来事でも違った法律によって判定をしているから、全く正反対の刑を科すことになる」
う〜ん、なるほど。そう考えるとわかりやすいですね。同じ料理を食べても、ある人は美味しいと絶賛するし、ある人はこんな物は食べられないと言う。それはその人たちが持っている法律、つまり好き嫌いの基準が違っているからですよね。
「もうひとつ厄介なのは、他人や出来事に対して判決を下すだけでなく、その刑の執行もできると思い込んでいることだ。自分にしか適用できない法律によって、有罪と認めた相手に対して罰を与えようとする。だがそんなことは不可能だ。暴力で誰かを屈服させたとしても、違う法律で生きている人間にその罪を認めさせることはできない」
裁判官として判決を下すけれども、それは他人にとっては関係ないことですものね。でも刑の執行ができないのに、なぜ人間は裁判官としてあり続けるのでしょう？
「いや、人間は刑の執行を常にやっている。判決を下すと同時に刑の執行がなされるのだ。それも無意識に、そして逃れようもないほど厳格に」
えっ、他人に刑の執行はできないのですよね？
「他人ではない。自分に対してだ！他人の行為や、起きる出来事、様々な物に対して判断を下し判決文を読むとき、それに対して課された刑の執行を受けるのは自分なのだよ。人間は生涯を通じて自分の外の世界を裁き、そのことによって自分に罰を与えているのだ。愚かだとは思わないか……」
あぁ、そう思うと切なくなります。どうすればこの呪縛から抜け出すことができるのでしょう？
「人生を通じて取り組む課題であろう。まずは自分を支配している法律を改正することだな。裁判官であることをいきなり放棄するのは難しい。その前に基準となる法律を変えていけばいいのだ。つまり自分に課していた善悪の判断を見つめ直すことだな」
なるほど。より懐の深い法律に変えていくことで、今まで有罪だと決めていたことを処分保留、あるいは無罪にすることができますね。そうすることでその刑の執行を受ける自分の心の負担を減らすことができます。
「そうだ。そうして自分が下す判決が自分への刑の執行であることに、体験を通じて気づいていくことが大切だ。そうすればやがて善悪の判断が無意味であるという結論に至る。そうなればそこには裁判官は存在しない。ただ起きるべきことが起き、それを判断することなく淡々と受け入れていく自分を発見できるであろう」
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