緩急の配分が完璧な時代劇
ボクが子供のころは、テレビでの時代劇が全盛期だった。『銭形平次』、『水戸黄門』、『遠山の金さん』等、出演俳優が代わってもシリーズ化されたドラマが継続されてきた。
そのほとんどが京都での撮影だったので、右京区の太秦はいまとちがう活気に満ちていた。妻は右京区に住んでいたので、大覚寺や広沢池等へ散歩にくと、時代劇の撮影とかち合うことが多かったそう。
ところがいつしか時代劇の火は消え、太秦界隈もすっかり寂しくなっている。廃業された大部屋の俳優さんは大勢いるだろうと思う。時代劇を支えてきた職人的なスタッフの人たちは、後継者を育てることができないのではと危惧している。
視聴率がすべてのテレビ業界だから、数字を取れないドラマが消えていくのは仕方ない。だけど時代劇の火を一度でも完全に消してしまうと、もう一度復活させるのは難しいと思う。だからこそテレビは無理でも、映画に期待をしたい。
以前観たことがある時代劇だけれど、妻が観ていなかったので久しぶりに鑑賞することにした。そしてその映画の素晴らしさに感動した。こんな映画が作られている限り、まだまだ時代劇は大丈夫だという明るい未来を感じることができた。
2021年 映画#133
『超高速!参勤交代』という2014年の日本映画。この作品は何よりタイトルが素晴らしい。参勤交代といえばスローモーションのイメージ。なのに『超高速』というミスマッチな言葉が頭につくことで、何かが起きるというワクワク感と、大笑いできそうな期待感に包まれる。
時代劇の基本は勧善懲悪。まずこれは絶対。さらに欠かせないのは殺陣のシーン。これはリアリティが高ければ高いほど興奮する。さらに緊張だけでなく、笑いという緩和も必要。『水戸黄門』でいえば、うっかり八兵衛のような人物は欠かせない。
この映画はそうした要素が完璧に組み込まれている。悪役は陣内孝則さんが演じる松平信祝という老中。徳川吉宗に仕えた実在の人物。
一方悪役をやっつけるのは佐々木蔵之介さん演じる内藤政醇という湯長谷藩の藩主。これまた実在の人物。
ところが物語は実際にあったことではないはず。参勤交代で江戸から戻ったばかりの藩主に、通常は8日かかる道のりを5日以内に参勤しろという命令。金山に関わる釈明を求めたもので、その時期までに到着しなければ藩は取り潰しとなってしまう。
これだけで十分に笑える設定。どう考えても無理な行程を、どうすれば成功できるか? 要するに必死になって走るしかないwww
だが悪役は忍びを使ってそれを邪魔する。この藩を取り潰して金山の権利を横取りするため。ということで当然ながら戦闘シーンがある。その緩急の配分がとてもよくできていて、最初から最後まで飽きることなく楽しめる時代劇だった。
とにかく出演している俳優さんが、そろいもそろってみんな上手い。誰もが緩急の二面性を持っていて、魅力的な人物ばかり。その代表として藩主を演じた佐々木蔵之介さんのキャラがこの映画を象徴している。
ちょっと抜けた雰囲気で温和な殿様。領民の立ち位置に寄り添って彼らの平和を願っている。ところが剣を持てば、屈強な忍びの人間をあっという間に切り捨ててしまう達人。つまり藩主がそうだから、当然ながら家臣たちも同じ。
久しぶりに観たけれど、本当に素敵な時代劇だと再認識した。ということでこれまた久しぶりに続編の『リターンズ』を観るとしよう。
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