全力で誰かを守る理由
たとえ自分の命をかけてでも、守りたい誰かがいる人は多いはず。ボクの場合は家族である妻と猫のミューナ。二人が幸せに暮らしてくれるなら、どんなことでも厭わない。むしろ辛いことほどやり甲斐があると思っている。
でもよく考えてみれば、全力で守るべき人がいるのは幸せなことだよね。守るべき存在がないのは気楽なように思えるけれど、人生における得がたい幸せを逃しているのかもしれない。つまり誰かを全力で守ることは、その人自身を幸せにしているんだと思う。
守るべき存在は家族だとは限らない。だとすると、それなりの理由があるはず。そしてその理由には、人の心を動かすドラマを含んでいると思う。ある小説を読んで、そのことを教えてもらえた。
『ねこのばば』畠中恵 著という小説。妖怪が登場する時代小説である『しゃばけ』シリーズの第3弾となる短編集。最初の『しゃばけ』を読んで以来、このシリーズの世界にハマっている。調べてみると今年になっても新作が出てて、いまのところで20作品もある。だから当分は楽しめそうwww
主人公は一太郎という廻船問屋兼薬酒問屋の若旦那。最初の作品では17歳だったけれど、この作品では18歳となっている。一太郎の祖母は力のある妖怪で、彼にも妖怪の血が流れている。だけど妖怪たちの姿が見えるだけ。
生まれたときから身体の弱い一太郎を心配して、なくなった祖父がそばにおいたのが佐助と仁吉という二人の手代。もちろん二人は妖怪で、佐助は犬神、仁吉は白沢という名前の妖怪。
一太郎の両親も息子を心配して甘やかすけれど、それ以上に世話を焼くのが佐助と仁吉の二人。ちょっと咳でもしようものなら、医者を呼んで一太郎を布団に放り込む。そんな妖怪たちと関わりながら、一太郎が江戸で起きる様々な事件を解決していくという物語。
とにかく一太郎を守っている佐助と仁吉がいいキャラ。一太郎の祖母に孫を守るように言われたのが始まりだけれど、それぞれに一太郎を守る理由があった。前回の作品である『ぬしさまへ』では仁吉の理由が明かされた。
仁吉が唯一愛したのは一太郎の祖母。だけど祖母は何度も生まれ変わって人間である一太郎の祖父と愛し合ってきた。だからずっと片思いなんだけれど、愛する存在の孫ゆえ、仁吉は命をかけて一太郎を守ろうとしている。
そして今回の短編の一つでは、佐助が一太郎を守る理由が語られていた。犬神である佐助は、一太郎の家に使える前にもある店の手代をしていた。たった一人で孤独に暮らしていたとき、その店の主人に優しくしてもらい雇ってもらえることになった。
その店にも一太郎と同じような身体の弱い若旦那がいた。必死で守ってきたけれど、ある妖怪の罠に落ちてしまった主人に気づくのが遅れ、佐助は若旦那の死を防ぐことができなかった。その後悔に苦しんでいるとき、一太郎の祖母に出会って孫の世話を頼まれた。
佐助にとって一太郎を守ることは、過去の失敗を取り返す機会でもある。それゆえ過保護だと思っていても、一太郎のことを全力で守ろうとする。物語の回を追うごとに登場人物の過去が明らかになってきて、ますますこの物語に引き込まれていくことになった。
しばらくは妖怪たちの活躍に笑いつつ、感動の涙を流すことになりそうだなぁ。
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