事件を解決した幽霊たち
幽霊という言葉を聞くだけで、ついおどろおどろしい姿を思い浮かべてしまう。日本人なら『四谷怪談』や『リング』をイメージするだろう。
その幽霊にスティーブン・キングという作家が加わると、反射的に背筋がゾクゾクしてしまう。ところがいい意味で期待を裏切られた作品を読んだ。
『ジョイランド』スティーブン・キング著という小説。著者の邦訳作品の完全制覇に挑戦中だけれど、まだ延で30冊ほどひかえている。だけど面白いのでやめられない。この物語も心に深く残る作品だった。
これは著者にしては珍しく、かなり正統的なミステリー作品。連続殺人犯を明らかにしていくことがストーリーの骨子にある。だけどそこはスティーブン・キング。きっちりと幽霊が大活躍する。
主人公はデヴィンという名の大学生。彼の失恋、女性との初体験、そして霊能力を持つ少年との交流を描いた物語。『ジョイランド』というのは遊園地の名前で、デヴィンが夏休みのあいだここでアルバイトをした。
その遊園地のお化け屋敷で若い女性が殺されたことがある。その女性の幽霊が大勢の人に目撃されていた。最初にこの話題が登場するので、ドキドキ感が最後まで続く。このあたりが著者は実にうまい。
結論からいえば、デヴィンが最初に知り合った観覧車担当のレインという男性が連続殺人犯だった。ただし最後までそのことは明かされない。むしろ余命宣告を受けたマイクという少年をデヴィンがジュイランドに招待したとき、先輩職員としてレインは最高のもてなしをしてくれる。
ところがそのマイクという少年が超能力者だった。スティーブン・キング風に言えば、この少年は『シャイニング』を持っていた。そしてマイクによって、お化け屋敷に囚われていた女性の幽霊は昇天する。さらにデヴィンがレインに殺されそうになったとき、その事実を幽霊から知らされたマイクが彼を救った。
その幽霊はエディというお化け屋敷担当の男性。デヴィンをずっといじめていたけれど、心臓発作を起こしたとき彼に助けられて一命を取りとめる。その後に心臓病が再発して亡くなるけれど、きっとデヴィンに感謝していたんだろう。デヴィンがレインに殺される、と超能力のあるマイクに助けを求めた。
そのレインを殺したのが射撃の選手だったアニーという女性。アニーはマイクの母親であり、デヴィンの初体験の相手でもある。そのことによって、犯人がわからなかった連続殺人事件も解決することになった。
全体としてデヴィンの青春の1ページを描いた作品なんだけれど、幽霊は悪役ではなく主人公たちを助けて事件を解決に導いてくれた。結果としてマイクは病気で死んでしまうし、母親のアニーとの恋も実らない。
でもそれでいいんだよね。どことなく切なくてすっぱい青春時代の出来事と、連続殺人事件が違和感なくミックスされた作品。60代になったデヴィンが回想しているという設定もいい。
命のはかなさと時の流れの無情さを見せられつつも、永遠に消えることのない愛や思いやりを感じられる作品だった。
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