離れた家族を繋ぐ系
自分の趣味だけで小説を選んでいると、どうしても偏りが出てくる。だからボクは自分の視野の裾野を広げるため、直木賞と本屋大賞については、候補作の発表段階でチェックするようにしている。ただどれもが人気作なので、図書館で予約しているボクが読むころには受賞作の発表が終わっているけれどねwww
昨日読了した小説も、直木賞候補だったことで出会った。そしてその出会いに感謝するほど素敵な作品だった。
2021年 読書#36
『雲を紡ぐ』伊吹有喜 著という小説。読み終わって心がポカポカになる素晴らしい小説だった、特に大きなドラマや展開があるわけじゃない。だけど登場人物たちの心理描写が克明に描かれていることで、それぞれの人が背負っている人生の重さと深い愛を感じることができた。
主人公は私立の女子高校に通う美緒。自分の意見を思うように口にできない美緒は、ちょっとしたことでイジメの対象となってしまった。それで学校に行くことができなくなり、ずっと自宅に引きこもっている。
美緒の母親は中学校の英語教師で、彼女も生徒の親たちとトラブルを抱えていた。さらに娘の不登校がネットで取り上げられることで、精神的に追い詰められていた。父親は大手電機メーカーで新製品の開発に携わっている。だけど業績が落ちたことで、外国の企業に買収された。それでいつクビになるかわからない。
そんな3人の家族の心は離れ離れになっていた。やがてある出来事がきっかけで、美緒は家出をしてしまう。向かった先は父の実家である祖父の家。祖父はホームスパンと呼ばれる羊毛から作る織物の職人。日本でも名を知られている第一人者で、彼の製品は芸術作品としても認められていた。
だけど父と祖父は疎遠になっていた。それは美緒が生まれてすぐ、美緒の祖母が死んだことが理由だった。自殺だと思われる状況だったことで、美緒の父は祖父をなじった。それ以来、一人暮らしの祖父とは縁遠くなっていた。
だけど美緒の心の支えは、彼女のお宮参りのときに祖父と祖母が作ってくれた赤い色のショールだった。だからその想いだけを抱え、ほとんど交流のなかった岩手の祖父を訪ねる。そして祖父と美穂の生活が始まった、
まだ新しい小説なのでネタバレはここまで。この祖父の存在によって、離れ離れだった家族がひとつにまとまっていく物語。そして美緒は自分も祖父母のような織物作家になることに目標を設定して、自分の生きる道を見出そうとする。
この祖父のキャラが本当に素晴らしい。頑固だけど温かい。彼自身も多くのことを抱えているのに、孫娘のためにすべてを捧げようとする。ボクはこの祖父と美緒の様子を見ていて、二人の老人が頭に浮かんだ、
ひとりは『アルプスの少女ハイジ』のアルムおんじ。
もうひとりは『赤毛のアン』のマシュー。
美緒の祖父は、この二人を足して割ったようなキャラ。二つの物語を知っている人ならイメージしてもらいやすいと思う。それほど長い小説じゃないのに、美緒、彼女の両親、そして祖父の人生が手に取るように脳裏に刻み込まれる。
それらが自然に入ってくることによって、著者の筆力の素晴らしさを感じさせられた。直木賞の候補に何度も選ばれているけれど、きっと近いうちに受賞されるような気がするなぁ。
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