過去はやり直しを妨害する
過去の出来事を変えたい、と誰もが一度は思うだろう。だけどそんなことは無理。出来事の解釈を変えることはできても、事実そのものをなかったことにはできない。
だから小説や映画では、そんな物語が次々と創作される。それは人間が根本的に持っている願望だから。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という映画は、過去を変えるという代表的な作品だろう。
そしていまボクが全作品制覇を目指しているスティーブン・キングも、このテーマに挑んでいる。これがめちゃくちゃ面白いことになりそう。
『11/22/63』上巻 スティーブン・キング著という小説。全部で上・中・下の3巻構成になっている作品の上巻を読了した。このタイトルの意味がわかった人は歴史通だよね。
これはアメリカのケネディ大統領が暗殺された日時。時間をさかのぼることで、JFKの暗殺を歴史からなかったことにしようとする物語。ただしタイムマシンを使うわけじゃない。タイムトラベルの設定が、いかにもスティーブン・キングというユニークなもの。
主人公のジェイクは高校教師。ある日、アルというダイナーの経営者に相談を持ちかけられる。なじみの店なので、前日にもそこで食事をしている。ところがたった1日しか経っていないのに、アルは何十年も年齢を重ねたようになり、かつ肺癌で死ぬ寸前だった。前日まで元気だったのに。
その秘密はダイナーの食品倉庫にあった。その倉庫と過去がつながっている。そこは2011年の世界だけれど、倉庫から1958年の同じ場所に移動することができた。ただしいくつかルールがある。
(1)いつ行っても、1958年の8月の同じ場所に着く。もし2011年に戻っても、次に行くときはまた同じ日になっている。
(2)本当の過去なので、出来事を変更することができる。例えば家族を事故死から救うとか。だけど一度2011年に戻ってからもう一度1958年に移動すると、すべてがリセットされてしまう。だからまた家族は事故に遭う。
(3)1958年で何年過ごしても、2011年に戻ってきたときは2分しか経過していない。だからアルはたった1日で病気になっていた。
(4)そして最大のルールは、出来事を変えようとすると過去が妨害するということ。例えば誰かを助けようとしても、天候が急変したり、病気になったり、倒木があったりと、その行為を邪魔される。過去はすでに起きたことを変更することに抵抗する。これがこの物語を面白くしている。
アルが過去に行った理由は、JFKの暗殺を防ぐために犯人のオズワルドの行動を邪魔すること。だけど1958年から1963年まで過ごしているうち、ヘビースモーカーだったアルは肺がんになってしまった。それでオズワルドを止めることができないので、信頼できるジェイクにその願いを託すというのが上巻。
最初は疑っていたジェイクだけれど、実際に1958年に行って事実だと認める。そして彼の学校の用務員であるハリーという高齢の男性を助けることで、過去を変えられることを知る。子供時代に母親と兄弟を父親に殺されたハリーを救うことで、2011年に戻るとハリーはまったく違う人生を送っていた。
ところがハリー障害者になることは避けられ、さらに母親と妹は寿命を全うすることができた。でもハリー自身は健康であったことで、ベトナム戦争で戦死してしまう。ジェイクが過去を変えなければ、彼は高齢まで生きることができたのに。
そこでアルに代わってJFKの暗殺を防ごうとする。なぜならケネディ大統領が生きていたら、ベトナム戦争があれほど泥沼化しないと確信できたから。ハリーを救うためにも、ジェイクはもう一度1958年に向かう。ここまでが上巻のストーリー。
著者のファンとして最高だったのは、1958年に子供のハリーを助ける場面。なんと場所はメイン州のデリーという架空の街。今年の秋に続編が公開される『IT』のファンならその名前を知っているはず。ピエロの化け物が子供を殺した街がデリーだから。
1958年といえば、『IT』に登場する子供たちが初めてペニーワイズと戦った年。そして『IT』で活躍したべバリーとリッチがこの物語でも登場する。ジェイクが二人に道を尋ねるという設定。すでに1958年の夏は終わっていたので、ベバリーたちはピエロに勝利した直後のこと。
だけどその30年後にはまたデリーでペニーワイズと戦うことになる。それが今年に公開される映画の続編。とにかくボクにとっては大好きなキャラが特別出演したので、この物語がさらに好きになってしまった。
面白すぎて興奮したので、つい長いブログになっちゃったなぁ。とにかく中巻と下巻を読むのが楽しみ。しばらくはタイムトラベルの世界を堪能したいと思う。
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