感情のドミノ倒しが殺人を誘発
子供のころは感情を爆発させた人でも、大人になれば自制心が育つ。家族に感情的な素顔を見せることはあっても、近所の人や職場の仲間に対しては笑顔で対応している。たとえ腹の底が煮えくりかえっていてもねwww
だけどそれは微妙な均衡によって保たれている緊張感であって、ちょっとしたことが引き金になって暴発する危険をはらんでいる。そんな人間心理を赤裸々に描いた小説を読んだ。
2021年 読書#84
『ニードフル・シングス』上巻 スティーブン・キング著という小説。この物語は、ボクがこれまで読んだ著者の作品でトップ3に入ってくるかもしれない。それほど面白くて、めちゃめちゃ怖い。その恐怖というのは、『ミザリー』や『シャイニング』、あるいは『IT』のようなものとはちがう。
人間の心理を巧みに操った末の恐怖であって、それだけにいい知れない根源的な怖さがある。とにかく長い小説で、この上巻だけで文庫本630ページあり、まだ読んでいない下巻も650ページほどある。この上巻を読むだけで6日もかかった。
物語の舞台はキャッスルロックという、メイン州に存在する架空の街。これまでキングの著作では、同じくメイン州の架空の街であるデリーと並んで頻繁に使われている。有名な作品では『スタンド・バイ・ミー』で、ボクが先月の20日に紹介した『サン・ドッグ』という小説もこの街が舞台。
この作品はその『サン・ドッグ』の直後のキャッスルロックで、『サン・ドッグ』で悪霊が取り憑いたポラロイドカメラによって家ごと焼かれて殺されたポップという老人の店が、この物語では更地となって登場している。
その近くにオープンした新しい店が『ニードフル・シングス』という名前。名前からわかるとおり、客が心の奥底で求めている商品が置かれている。それはベースボールカード、死んだ父が使っていた懐かしい釣竿、子供のころにどうしても買えなかったキツネのしっぽ、ギャンブル依存症の人間が競馬に勝てるゲーム、希少品の花瓶というような様々な商品。なかには神経痛に苦しむ女性の痛みを止めてくれるお守りもある。
とにかくその店を訪れると、店主のリーランド・ゴーントによって心の全てを読み取られる。そしてどんな商品でも倉庫から出てくる。客はどうしてもその商品が欲しくなる。何を犠牲にしてもかまわないと思うほど。そこでゴーントは取引を開始する。
子供の小遣いでも買える格安の値段で売る代わりに、ちょっとしたいたずらを住民に仕掛けることを求める。それが契約の条件。洗濯物に泥をかけることだったり、窓ガラスを割ったりする程度。誰かの家に謎の紙を貼ったりするといういたずらもある。
だけどそれは巧妙に仕組まれた罠だった。ゴーントの正体はわからない。だけどこの世のものではないのは確実。人間の深層心理が手に取るようにわかり、求めるものを提供するから。そして契約を交わした人間が、いま何をしているかも読み取れる。だから契約を盾にして、あるゆることを住民に強要する。
どんな人間でも他人との問題を抱えている。だけど自制心によって最悪のトラブルとなることを防いでいる。ゴーントはその緊張を第三者のいたずらによって極限までにもっていく。そしてドミノ倒しのように人間関係を破綻させる。上巻の最後になって、ある女性たちが包丁とナイフで刺し合って、二人とも死んでしまうという事件が起きた。
それ以外にも次々と仕掛けが施されている。同じようなことが起きるという極限の不安状態で上巻が終わる。この街で唯一理性を保っているのが保安官のアラン。そしてゴーントもアランを警戒して自分の店に近づけようとしない。下巻はおそらくこの二人の戦いになるのだろう。
とにかく怖い。ちょっとした誤解が原因で、簡単に人が死んでしまう。これは現代社会でも起きることだと思う。このままではキャッスルロックの人たちは次々と殺し合いを始めるだろう。物語がどのような方向へと向かうのか、少しびびりながらも期待して下巻を読もうと思っている。
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