生きることの奇跡を見せられた
神戸は猛暑日から逃れたけれど、日本海側はフェーン現象で40度を超えているところがあるらしい。まだまだ暑い。
せめて気分だけでも涼しくなればと思い、クリスマスをテーマにしたラブストーリーの映画を観た。そんな軽い気持ちで観た作品なのに、流れてきたのは大量の汗じゃなく感動の涙だった。なんて素晴らしい映画なんだろう!
『ラスト・クリスマス』という2019年のアメリカ映画。タイトルでもわかるように、クリスマスソングで有名なワムの曲をイメージして作られた作品。映画の全編を通じて、ワムやジョージ・マイケルの曲がBGMとして使用されている。
まだ昨年の暮れに公開されたばかりの作品なので、絶対にネタバレしない。それは新しいだけでなく、この映画を単なるラブストーリーから飛躍させた仕掛けがラストで明らかになるから。それを知らずに観ないと、この映画の価値が失われてしまう。
主人公のケイトは歌手を目指しながら、ロンドンのクリスマスショップの店員として働いている。だけどある出来事があってから自堕落な生活が続き、友人の家を渡り歩いていた。母との折り合いが悪く家には戻りたくない。姉とももめてばかり。
だけど飲み歩いては男を連れ込むことで、泊めてくれる友人も失くしていた。歌手のオーディションには真剣に取り組まないし、夢を追いかけながら不満ばかりを抱えている。その最大の理由は、心臓の移植手術を受けたこと。
命をもらったことに感謝するようにと、周囲の人たちは強制する。ケイトはそれが耐えられない。むしろ自分の大切な一部が失われて、肉体に別人が入り込んだような違和感を抱えて生きてきた。だから何かにつけてやる気になれない。
そんなときトムという男性に出会う。ケイトは無視しようとするが、トムはやたらと彼女を誘う。それでたまにデートするうち、彼の魅力に引かれていく。トムといるときだけ、ケイトは素直でいられた。
ところがトムは携帯電話をもっていない。携帯に縛られたくないという理由。だからケイトは彼に会いたいと思っても連絡が取れない。それでトムを探すため、彼がボランティアをしていたホームレスのケア施設を訪ねるようになる。
それでもトムと会うのは、彼が現れるのを待つしかない。そしてトムにいろんなことを学ぶうち、ケイトの生活に変化が現れる。ホームレス施設の資金集めのためにストリートミュージシャンを始めたり、自分のせいで疎遠になっていた友人たちに謝罪してまわる。姉とも和解する。
それは自分という存在が、日々の生き方の積み重ねだとトムに教えてもらったから。だからケイトは本気で人生を変えようと決心する。でもどうしてもトムに会いたい。それで我慢できなくなったケイトは、一度だけ招待された彼の自宅を訪問する。そして衝撃的な事実を知る。
トムとはいったい何者なのか?
それがわかったとき、ボクは涙が止まらなかった。なんとなく感じていたけれど、事実を目の当たりにすると号泣してしまった。そしてそこで『ラスト・クリスマス』の曲の意味がわかる。
『生きる』ということは奇跡。そのことをコメディ作品として教えてもらえた。ケイトを演じたエミリア・クラークという女優さんは、決して美人じゃないけれど、この役にぴったり。そして彼の母親を演じたエマ・トンプソンがこの作品を優れたものにしていたと思う。
さらにトムを演じたヘンリー・ゴールディングという俳優さんが本当に良かった。季節外れだけど、観て良かったと心から思える作品だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。