心を引き裂く苦悩は、言葉にならない
小説で苦労するのが擬音。特に心の内面を表現するような擬音はかなり使い方が難しい。
だからできる限り使わないようにしている。かといって陳腐な台詞を登場人物に語らせるのも逆効果。考えれば考えるほど、表現方法に悩む。
ところが映画ならこの問題は一気に解決する。素晴らしい俳優さんの演技によって、言葉にならない『何か』を表現することができる。
言葉にできない心を引き裂くような苦悩を、ほんの数秒で演じきった俳優さんの素晴らしい演技を見た。
『ゴッドファーザーPARTⅢ』という1990年のアメリカ映画。
今年の年始に一挙放映していたゴッドファーザーの最終作をようやく観た。過去に何度も観ている作品だけれど、その素晴らしさをいくらでも語ることができる。映画史に残る名作なのは当然だと思う。
特にこの最終作は、マジで泣いてしまう。まちがいなく号泣する。もちろんその涙を誘う演技を見せるのは、主演であるマイケル・コルレオーネを演じるアル・パチーノ。
若いころは父の仕事を継がず、堅気になるつもりだったマイケル。ところが兄が殺され、父も命を狙われる。ファミリーを守っていくために、マフィアの非情な世界に踏み込む決意をする。そうして自分の両手を血に染めることになる。
だが若いころのそんな想いをなくしたわけではない。一定の地位を築いたマイケルは、この最終作で本格的に足を洗うことを模索する。息子はオペラ歌手となり、娘は自分が作った慈善団体を運営してくれる。
そしてマイケルも引退して甥のヴィンセントに仕事を譲り、自分はバチカンが絡む企業に投資をすることで普通の生活を過ごそうとする。ところが呪われた血の軌跡は彼を追いかけてくる。
ヴィンセントとマイケルに与しない別のファミリーが、彼に殺し屋を送る。息子のオペラ歌手としてのデビューが故郷のシチリアで開かれる。暗殺の舞台はその劇場となった。ヴィンセントの必死の警備により、なんとか公演中の暗殺は防げる。
ところが劇場を出た直後、マイケルが殺し屋に発砲される。ところがその銃弾はマイケルをそれ、娘の胸を射抜いてしまう。必死で普通の人間に戻ろうとしていた初老のマイケルが、それまでの自分の血の滲むような努力が徒労に終わったことを知る。
マイケルは叫ぶ。息絶えた娘を抱きかかえ、言葉にならない声を発する。人生の苦悩と絶望と怒りが凄まじい渦となって、その声とともにマイケルの口から吐き出される。今思い出しても、ボクは涙が出てくる。
その直後ラストシーンとなる。シチリアの田舎町で、たった一人になった老人のマイケルが人生の最後を迎える。すぐ近くに子供の姿があるのは、マイケルの父とよく似ている。でもマイケルが抱えていた孤独は、想像を絶するものだろう。
このラストシーンを見ると、また第1作から観たくなるんだよね〜w それこそが名作の持っているパワーだと思う。
この映画のもう一つの見どころは、ヴィンセントを演じるアンディ・ガルシア。ボクが彼を初めて観たのは1987年の『アンタッチャブル』だから、この映画はブレイクしてまもないころだと思う。『アンタッチャブル』のアンディもかっこよかったけれど、この映画の彼も最高だった。
2001年に公開される『オーシャンズ11』のときの、カジノ経営者の風格がすでにこの時代からあるように思った。多くの映画で観ているけど、本当にいい俳優さんだよね。
そしてドラマの『クリミナル・マインド』でFBIの捜査官役を演じていた若き日のジョー・マンテーニャも、やっぱり存在感があった。さらに忘れてならないのは、イーライ・ウォラック。『荒野の七人』の悪役は、この映画でも健在だった。
たった数秒で、一人の人間の全人生の苦悩を表現したアル・パチーノ。この短い瞬間を観客に見せるため、延べにして9時間近くあるこの映画のシリーズがあるような気がする。やはり歴史に残る最高の映画だと思う!
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